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act.56

 マックスにしてみれば、食べ物がろくに喉を通らない昼食だった。
 斜め隣にウォレス。向かいにはマーク・ミゲル。
 傍目から見て、この3人組はどう映るだろう。 ビジネスランチで多様される有名レストランの中でもこの3人組は目立つのか、他の客はおろか、店員までも興味深げにこちらの様子を伺っているのが感じられた。
 3人で食事をするという時点で、すでに舞い上がってしまったマックスには、誰が何を話しているのやら、まるで集中ができなかったが、他の二人は意外にも他愛のない話で淀みなく会話を交わしていた。ミラーズ社の今後の展望から野球の話、好きな建築家の話まで、何気なく自然な会話だ。先ほどの医務室での緊張感はどこへやらといった風情である。
 食後、特別に煎れて貰ったエスプレッソを啜っているうちに、ウォレスの携帯に電話がかかってきた。
「失礼」
 ウォレスは席を中座すると、ホールの外の人気のない廊下に姿を消す。 マックスは恨めしそうな顔つきでミゲルを見た。
「正直、俺には分からないな」
 以前のように、あからさまにマックスを口説く素振りも見せないミゲルに、マックスは正直に戸惑いをぶつける。
「ん?」
 ミゲルがマックスを見る。
 マックスは、軽いため息をつくと、凝り固まった身体を解すように、椅子に座ったまま背伸びをする。
「3人で食事をしましょうっていうのも分からないし、ジムとそんなに自然に話ができる事自体が分からない。俺なんか、彼と自然に話が出きるようになるまで随分かかったんだぜ? おまけにあなたとジムは・・・つまりその・・・」
「恋敵っていいたいの?」
「そう、それ」
 おじさん臭く指でミゲルを指し示しながらマックスが返事をぼやかすと、ミゲルはその様子のおかしさに、つい吹き出してしまう。マックスはバツが悪いのか、そっぽを向いて口を尖らせた。
 ミゲルはデミカップをソーサーの上に置き、テーブルの上で頬杖をつくと目の端でウォレスの背中を追いながら言った。
「よもやあんなに情熱的な手段に出るとは思っても見なかったから、毒牙を抜かれたってところかな。・・・君の想い人はなかなか見かけだけで判断するのは難しい。何というか・・・。どこか神秘的な感じがするね。影があるというか」
 ミゲルの例えは、的確だった。
 今までマックスも言葉として思ったことはなかったが、時々ウォレスの佇まいを見ていると、神々しい雰囲気を感じる事がある。
 神の存在を感じる、というのとは違うが、ウォレスを見ていると天井の高い教会の空気や空間感を連想させられる。
 ウォレスが、休日の度に熱心に神の家を訪れている敬虔なクリスチャンだということは聞いていない。いや、教会に出向いている様子も見られなかったが、彼が肌身離さず十字架を身につけていることは知っていた。
 マックス自身は、ウォレスが祈りを捧げている場面に出くわしたことはない。
 しかし、ウォレスが熱心に祈りを捧げている姿はなぜか容易にイメージができた。やはりそこには、僅かながらでも真実に近いものがあるのだろうか。
「悔しいけど、ミスター・ウォレスは魅力的だ。迂闊にも医務室で、そのことを痛感させられた」
 医務室でそうしたように天を仰いで片手で額を覆いそう言うミゲルの顔つきを見て、マックスはぎょっとなった。
「やだな。なんか非常に嫌な予感がする」
 ミゲルの口調に妙な熱っぽさを感じたのは気のせいだろうか。 だが、間髪入れず「君の彼氏も大変おいしそうだといったら、怒るかい?」という爆弾発言を繰り出され、マックスは自分の頭から湯気が立ち上るような感覚を覚えた。
「当たり前でしょう!! まったく、節操がないというか、何というか!」
 辺りはばからず大声を上げるマックスを尻目に、ミゲルはぼんやりしながら「生粋のゲイとして生きているとねぇ、本能には負けてしまうんだよねぇ」と呑気に呟いている。そして気付いたように真面目な顔つきになると、「でも、特別な想いを抱いているのは君だけだから」と言う。マックスは、その発言をうわ~と両手で蹴散らした。
「特別な想いなんていりません!! それに、ジムには絶対に近づかないでください!」
 ウォレスが、席に帰ってくる。そのウォレスの腕を掴んでマックスは力説した。
「この人は俺のものです!」
「あ。言っちゃった」
 ミゲルが目をまん丸くして呟いた。 マックスは、はっとして周囲を見回す。
 自分に注がれる目線に感づいて、既に『手遅れ』であることを知るマックスだった・・・。


 いよいよ・・・、いよいよだ。
 ドーソンは両手にずっしりとくるバールを握りしめながら、例の倉庫のシャッター前に立っていた。
 否が応でも気分が高揚してくる。
 結局・・・。下町の倉庫会社には金を掴ませた。
 面倒なことは訊かれたくなかったし、それが一番確実で効果がある方法だったからだ。ジェイク・ニールソンが使っている倉庫の中がどうなっているのか、すぐにでも知りたかった。
 今日は、ベン・スミスことジェイク・ニールソンが新聞社に出社していることは、既に確認済みだった。倉庫の合い鍵は倉庫会社の若いアルバイト・・・いつも耳の穴にポータブルプレーヤーのイヤホンを突っ込んでいるような奴だ・・・からせしめている。そのバイトの若者がいるからこそ、金を掴ませる方法を選んだ。もし相手がオーナーの老夫婦だと下手に騒がれるのがオチで、別の方法を取らなくてはならなかったが、ドーソンにとってはある意味幸運だといえた。
 手の中にある赤いペンキが剥げかけたバールは、万が一の時の防衛策だ。ニールソンが帰ってくるとは考えにくいが、相手は冷酷非道なテロリストである。用心に越したことはない。
 ドーソンは、両手に分厚い作業用の手袋を填めると、今一度周囲を見回してシャッターを少し上げた。元々この辺の倉庫街は寂れていて、昼間でも人の気配はない。
 ドーソンは何食わぬ顔をして、細いシャッターの隙間から中に身体を滑り込ませる。
 ジャリジャリと足音を響かせて立ち上がり、周囲を見回す。
 窓を布で覆っているせいか、昼間だというのに中は暗く、目が慣れるまでそこに何があるのか朧気にしか見えなかった。
  ーソンはポケットからチョコレートの欠片を取り出すと口に投げ入れる。このところ体調はよかったが、万が一ここで低血糖症を起こして倒れないようとの用心だ。
 そのチョコレートが口の中で溶けて無くなる頃、ようやく中の様子が見えてきた。
 ドーソンは息を呑む。
 目の前に壁のような影で見えていた物体は、堆く積まれた新聞紙だった。
 下に行くほど変色が酷く、一目見て年代物の新聞であることが分かる。
 ドーソンは、その山々がジェイコブ・マローン・・・この倉庫の本当の借り主だ・・・の新聞コレクションだということをすぐに察した。だがしかし、新聞社でも変人と噂されている青年のコレクションが、これほどのものとは正直思っても見なかった。
 ドーソンは更に周囲に目を凝らす。
 新聞の山の間にある棚には、ライターのオイル空缶や古びたプラモデルの箱、茶色く変色したレース編みが被せられた衣装箱、角がボロボロに剥げた革製のトランク、真新しい電気配線のコード、振るとカラカラいいそうな電球などが雑然と置かれている。
 新聞の山の日付を見るときちんと整理されているが、その他の部分はまるでおもちゃ箱をひっくり返したかのような様子だ。だが、その物達の上に被さっている埃の分量から言っても、昔からそれらはそこにあったものらしく、ニールソンが来てからの物ではなさそうである。となるとマローンは、かなりムラのある人物らしい。自分が夢中になっていることに関しては恐ろしいほどの集中力を見せるが、それ以外は行き当たりばったりな感があるのも否めない。
 倉庫の入口から入って右側、新聞の山の向こうに隠れるようにしてニールソンの寝床があった。彼は本気で、こんなカビ臭いところを根城にしているらしい。テロリストの潜伏先としてはいかにも・・・といった風情である。
 ドーソンは、なるだけそこにあるものに触れないようにしながらも、注意深く辺りを探った。
 読みかけの昔の新聞。飲んだ後のコーヒーカップ、古ぼけたデスクライト。
 夢中になってそこいらへんを探る内、ドーソンは興味深い物を手に取った。

 

Amazing grace act.56 end.

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編集後記

ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさぁ~~~~~~~~い!!!
え?なぜ謝るかって?
あはははは~。分かる人には分かるかと思いますが。
国沢、ナチュラルにスランプです~~~~~~。
あはは~。(取りあえず笑っとけ)
同時連載中の「触覚」が大図目を迎えているせいもあって、「アメグレ」の方は、なんだかうまく書けません(大汗)。嗚呼、くだらないこと書いてる!くだらないこと書いてる!!!
分かっているの、分かっているのよ~~~~~~!!
ああ・・・。場面がうまく思い浮かばないっす。つーことは、キャラクターが自分からホイホイ動いてくれない(涙)。
今きっと間違った方向に向かっているんだなぁ・・・。
ということで、なんだか自然な動きを見せてくれない今週のアメグレ出演陣でございます。
国沢、以前にもちょくちょく書いてきましたが、うちの場合、ストーリーとか台詞まわしとか、順調に行っている時は、国沢が頭悩ませなくっても勝手に登場人物が話を進めてくれるんですよ。いや、マジで不気味な話。
だから普段国沢は、あまりストーリーの筋書きとか考えずに、なるがまま動くがままほったらかし状態で、キーボードを叩いてます。ま、中には、「このシーンだけは書かせろ!」という場面はありますが、大抵は「はいはい、わかりました」とキャラクターが動いてくれる。すんなりと。国沢が気をつけている部分といえば、舞台描写や背景描写ぐらいのもので、あとはそりゃぁ楽に・・・。
でもこれが、いったん違う方向に国沢が無理やりぐいっと持っていっちゃうと(いわゆる雑念を混ぜ込むと)、途端にキャラクター、動かなくなるんです。あ~~~、分かったよ、お母さんが悪かった・・・(涙)。
きっときっと、マックスやきもち焼いてんのね~。国沢の頭の中、ほぼ櫻井くんで占められてるから(笑)。
いやはや、気難しい子供たちです・・・。

[国沢]

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