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nothing to lose title

act.134

 クローゼットの扉の影から現れたその人物の顔を見て、マックスは驚愕の表情を抑えることができなかった。
「久しぶりだなぁ。元気そうでなによりだ」
「・・・キ、キングストン・・・?」
 ニヤリと笑みを浮かべた男の顔には無精ひげがびっしりと生え、マックスが知っていた頃の面影はすっかりなくなっていた。だが、その爛々とした目の輝きは、マックスが忘れたくても忘れられないあの日の輝きそのままであった。
 キングストンはクリスマスイブのあの日、マックスに屈辱と恐怖を植え付けた男だった。キングストンはあの日のようにマックスの背後に回り込むと、耳元で囁いた。
「こうして再会できることだけを楽しみに、今まで地べたを這いずって生きてきたんだ。お前とあの憎たらしいウォレスに追い出されてからの俺の生活の有様を、お前のその綺麗な顔に塗りつけてやりたい。まったくもって酷いものだったよ」
 生ぬるい息と共にそう囁きかけられ、マックスの嫌悪感は究極に高まる。マックスの額にじっとりとした汗が浮かんだ。
「何で、お前がここに・・・?」
 背後を睨み付けようとしても身体がいうことを効かない。声を出すのが精一杯だった。
 キングストンはマックスの反応に十分満足したようで、高らかな笑い声を挙げた。
 マックスの目の前に回り込みながら、目尻に浮かんだ涙を拭いつつ「ああ、あんな狭苦しいクローゼットに隠れていた甲斐があった」と口走る。
 キングストンは、なれなれしい仕草でジェイクの肩を叩くと、
「俺と彼はとても仲のいい友達なんだ。完璧に利害が一致した。ビジネス成立だよ」
 と誇らしげにそう言った。
 どうやらジェイクはミラーズ社の内部のことを知る為にキングストンを利用したらしい。だが、あくまでキングストンは自分をジェイクと同等で互いに協力しあっていると主張したが、マックスには到底そうは思えなかった。
 にやついているキングストンの表情とは対照的に、ジェイクの岩のような顔は動かない。
 マックスはその様子に薄ら寒いものを覚える。キングストンの背後に立つジェイクの落ち着きようが怖かった。
 ジェイクが、例の爆弾つきベストをマックスの身体に被せた。腕を拘束されたままでもマックスは激しく抵抗をする。その身体をキングストンが押さえ込んだ。
「よせ! やめろ!! キングストン、あんたは利用されてるだけだ!!」
 そう言った途端、激しく顔を叩かれた。痛みに呻いている間に、マジックテープで次々と爆弾ベストが固定されていく。その間にもキングストンは数回マックスの頭部に暴力を振るってきた。マックスにベストを着せ終わったジェイクの手が、キングストンの腕を掴んだ。
「もういい」
 キングストンが不服そうにジェイクを見上げる。だがジェイクは、マックスに同情したような素振りは見せず、むしろ氷のような冷たい視線をソファーに蹲るマックスに向けた。
「これは餌だ。今から壊していたら、使おうとする時に使えない」
 キングストンが鼻で笑う。
「君の目的はジム・ウォレスなんだろ?」
 その台詞に反応して、マックスは顔を上げる。ジェイクはキングストンの問いには答えず、テーブルの上の小さなボックスを手に取った。まるで煙草のケースのような形状だ。その片隅に赤いランプがついている。
「これが何だか分かるかな」
 マックスは自分の身体にまとわりついている爆弾の根本から出ているワイヤーの先が、ジェイクの持つ箱と連動しているようだった。つまり、『リモコン』という訳だ。
「さぁ、そのジム・ウォレスとやらの居場所を教えて貰おうか」
 マックスはジェイクを睨み付けた。
「教える義務はない」
「状況が分かってないな」
 キングストンが大げさな声を挙げて肩を竦める。
 マックスは努めて冷静な声を保ちつつ、言った。
「あんたがそのリモコンのスイッチを押せば、あんた達も纏めてふっとぶんじゃないのか?」
 キングストンがきょとんとした表情を浮かべジェイクを見る。
 ジェイクは軽い溜息をついた。
「誰が爆弾と言った? それは発火剤の固まりだ。爆発することはないが、君は間違いなく火だるまになる。威力は僅かだが、人間一人ぐらいはわけなく焼き殺せる」
 キングストンが、マックスの側から飛び下がる。そしてまた耳障りな笑い声を響かせた。
「丸焦げか。こりゃいいや。その綺麗な綺麗な顔が真っ黒になるんだ。楽しみだ」
「人間はな、身体に火がついても表面が焼けている時は意識があるものだ。大抵は、息を吸う時に炎を身体の内部に巻き込んでガス中毒になって死ぬ。相当辛い死に方だ。素直に従った方が身のためだぞ」
 恐ろしいことを口にするジェイクは、それでも表情を変えることはなかった。それだけに恐怖は益々助長される。ジェイクの言っていることは脅しでもなんでもなく、事実そうなることを淡々と説明しているのだ。
 さすがのキングストンもそれを聞いて自分まで恐怖に震え上がったらしい。珍しく口をつぐみ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「で、ミスター・ウォレスはどこにいる?」
 再度ジェイクは訊いてきた。
「社内をくまなく見て回ったが、探し出せなかった。どこかに隠れる場所でもあるのか? ミスター・ウォレスに随分と愛されている君のことだ。ミスター・ウォレスに助けを求めるぐらい朝飯前だろう? それともミスター・ウォレスは自分の命が惜しくて、このビルの片隅で震え上がっているのかな。愛するマックス・ローズ君の命より、自分の命が大事だと。まるで、あの冬の時のように」
 ジェイクがウォレスを監禁した時のことを指していることは直ぐに分かった。その時シンシアの母親だった女性が、自分の命を犠牲にしてウォレスとシンシアを助けたことは聞いていた。
 マックスは震える身体をどうにか押し殺しながら、ジェイクを睨み付けた。
 ジェイクはこの時点で、ウォレスが社外にいることを知らないのだ。
 ウォレスがこのビルのどこかに潜んでいると思っている。
「もしそうだとしても・・・」
 マックスは答えた。
「もしジムがどこかに隠れていて、その場所を俺が知っていたとしても、お前には絶対に話さない。何があっても」
 ジェイクがすっと身を引いた。
 一瞬呆れたように窓の外を眺めると、
「本当に意外だよ。その軟弱な容姿にはそぐわないくらいタチが悪い。仕方がないな」
 そう言って額を掻く。そしてジェイクは、キングストンに目配せをした。
 キングストンは大きく頷くと、社長室を出ていく。
 だが直ぐに何かを押しながら帰ってきた。
 マックスは、思うように身動きが取れない中でも、身体を反り返させてキングストンの方に目をやる。
 キングストンが押してきたのは車いすだ。
 そこに座らされている人物を見て、マックスは思わず悲鳴を上げる。
「シンシア! シンシア!!」
 そこには、完全に気を失ったシンシアが座らされていた。

 

Amazing grace act.134 end.

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編集後記

今週は短くなっちゃいました。ううう、自分で書いててジェイク怖いよう(青)。
久しぶりにキングストン氏もブイブイ出て来ちゃったし。ウォレスはいまだビルの外にいるし。あああ、どうしよう(青青)。って、お前がどうしようって感じなんですけど(ざぼ~ん)。
いよいよ師走ですねぇ。こんなに暖かいのに、ジングルベルが鳴り響き始めましたね。
国沢、ここ数年越し、おもいっきりクリスマス死ね死ね団の一員なんですけど、どうやら今年も団員確定です!!
手相ではおもいっきり『晩婚』って言われたんですけど、神様~、年齢的にはもう『晩婚』の時代にはいってるんですけど、わし(汗)。

・・・・。

お~い・・・神様~・・・・・。

[国沢]

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