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この手を離さない title

act.89

 ショーン達と会社の近くの居酒屋で夕食を食べた後、定光は滝川と久しぶりの我が家に帰宅した。
 ショーンに「今晩家に泊まっていくかい?」と定光は訊いたが、ショーンは仇っぽい笑みを浮かべて、「今夜は二人きりで過ごしなよ」と言われてしまった。
 あのショーンが、そんな下世話な表情を浮かべるなんて!と定光は顔を真っ赤にしながらそう思ったが、ショーンのその気遣いは嬉しかった。
 確かに、早く二人きりになって、滝川をこの腕に抱き締めたい、キスしたい……。
 日本の居酒屋スタイルに大興奮の撮影スタッフに、あれやこれやと英語で解説している向かいの席の滝川を見つめ、定光はそうずっと思っていたのだ。
 だが、撮影スタッフは定光と滝川がそういう関係であることは知らないし、同席しているパトリック社の社員も村上以外は知らないはずだ。
 万が一知っていたとしても、公衆の面前で恋人とイチャつくなんて行為は、定光の辞書にはない。
 ショーンは、そんな定光のモジモジとした思いを察したのだろうか。彼は皆が食べるだけ食べて空腹が満たされたのを確認すると、「今日はさっさとお開きにしよう! 明日の飛行機は早いんだから」と皆を追い立てた。
 すっかり盛り上がっていたスタッフ達は名残惜しそうにしていたが、“王様”の言うことには皆素直に従う。
 彼らは、村上達が手配してくれていたホテルへと帰って行った。
 
 
 スーツケースの中の洗濯物を洗濯機に突っ込んで、定光が二階に上がると、滝川がリビングのソファーに座って、お土産のペンギン型をしたチョコレートを両手に持ち、モソモソと食べていた。
 テーブルの上には、まるで獣が引き裂いたかと思えるほどビリビリになった包み紙やリボンが散乱していた。
 その惨状が如何にも滝川らしくて、定光はほっとしてしまう。
 定光はコーヒーメーカーを仕掛けた後、滝川の右隣に座った。
「チョコ、美味いか?」
 定光が滝川の顔を覗き込みながらそう訊くと、滝川は「うん」と頷いた。
「ミルクの味が濃くて美味い。ただ、日本のチョコと違って、溶けやすいのが難点」
 定光は、チョコを口に放り込み終わった滝川の右手を掴んで、自分の膝の上に引き寄せると、指を広げさせながら見下ろした。
 確かに指先に溶けたチョコがまとわりついている。
 定光は、ハハハと笑った。
「まるで子どもみたいな有様だな」
 定光が言ってる側から、左手でチョコを掴み、滝川はまたそれを口に放り込む。
 ご満悦の様子で口をモゴモゴと動かす滝川の横顔を見つめ、定光は言った。
「でも……こうしてチョコが掴めるようにまでなったんだな………。凄く頑張ったな、お前」
 滝川が口の動きを止め、定光を見つめてくる。
 滝川はまたあの照れ臭そうな顔つきをすると、小さな声で「エレナにもハッパかけられたし……」と呟く。
「エレナ?」
「メールで。お前が向こうへ行った次の日ぐらいに」
「へぇ、そうなんだ……」
 エレナはそんなことを定光には言ってなかったので、意外に思った。だが、滝川はエレナとは完全にメル友なので、当たり前といえばそうなのかもしれない。
 定光は、ニッコリと笑うと、「お前が頑張ってくれて嬉しいよ。感動した、凄く」と伝えた。
 滝川も定光に誘われるように微笑みを浮かべると、「惚れ直したか?」と軽口を叩いてきた。
「もちろん……」
 定光はそう囁くと、チョコにまみれた滝川の指を口に含んだのだった。
 定光が滝川の指先のチョコを舌で舐めとると、なんだか神妙な顔つきになった滝川は、正面を向いて、自分の左手のチョコを舐めとった。
 定光が“そのモード”に入ったのを察して、急いで準備をしなきゃ、とでもいうようなそそくさとした仕草だった。
 そんな少年然とした様子の滝川に定光の心はまたキュンとして、左手を舐めている途中の滝川の頬を両手で包んで、自分の方に向かせた。



以下のシーンについては、URL請求



 互いに満足できるセックスをした後、風呂で汗を流してベッドに入ると、定光はすぐに眠ってしまった。
 長期の出張から帰ってきて疲れが溜まっているところに、帰宅後激しく愛を交わし合ったのが流石に応えたのだろうか。
 だが定光の寝顔は、とても穏やかだった。
 滝川は定光のすっかり短くなった髪を指で梳き、髪の乱れを整えると、マジマジと眺めた。
 健康的でとても美しい寝顔。
 セックスの余韻か、それともその最中に泣いたせいなのか、目尻の端が少し赤い。
 その最中、滝川が弾みで「愛してる」と初めて言ったことが余程嬉しかったのか、定光は泣き出してしまった。
 滝川はその時のことを思い出しながら、「んー」と目だけで天井を仰いだ。
「言っとくけど、お前も愛してるだなんて、俺に言ったことねぇんだぜ?」
 滝川はそう呟いて再び定光に視線を落とすと、定光の高い鼻をキュッと摘みながら、ふふふと笑った。
 滝川は眠ったままの定光の腕を掴んで持ち上げると、そこにスゴスゴと自分の身体を納めて、自分も穏やかな眠りについたのだった。

 

この手を離さない act.89 end.

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編集後記


あはははは〜。
今週大人シーンだったこと、すっかり忘れてたw
最近、こういうパターン多いなぁ。
更新作業する時に、エロの回だったことに気づくパターン。


・・・・・。


年かな(゚ー゚*?)オヨ?

・・・・・。


今さっきまで、また「デッドプール」観てたから、頭の中にお下劣極まりないデッドプールがスキップしている雰囲気。




・・・・・。


いやいやいや。「おてて」の続きを書かねば・・・。


ではまた。

2018.3.11.

[国沢]

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