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この手を離さない title

act.21

 滝川は、久しぶりに定光の唇を存分に味わった。
 定光の右手が、滝川のシャツをキュッと握る。
「……ふっ……ん……」
 定光が緩く鼻を鳴らす声を聞きながら、より深くキスを味わうと、ほのかにバターとタラコの味がした。
「 ── タラコの味がする」
 唇を離して滝川が思わず呟くと、定光がチラリとテーブルの上に目をやった。そこには、食べかけのタラコスパゲティがある。
「さっきまで食ってたから……。食べるか?」
 子供が口の端についたクリームを舐めるような表情で湿った唇をペロリと舐めた後、定光がそう言う。
 しかし、滝川にしてみれば、定光のその飾り気のない表情ひとつひとつが大層エロく見える。
 定光は全然エロく見せようだなんて一切思ってもいないし、むしろいつもと変わらない爽やかな表情や仕草そのものなのだが、そういう方が定光の無垢さ加減を強調しているようで、可愛くて仕方がない。
 この無垢な表情を早く快感でドロドロにしてやりたいと思う。
 滝川は定光の顎を指で捉えると、「その前に、お前を食わせろ……」と囁いて、再び唇を奪った。
 何度も繰り返し滝川から甘いキスをされ、さすがの定光も息を乱し、頬が薄っすらと赤らんでくる。
 滝川は、キスからそのまま、定光の首筋に唇を這わせた。
「……新」
 滝川の背中に手を回しつつも、定光が少し喉に絡んだような声で滝川を呼ぶ。
「ん? なんだ」
 定光の身体から香り立つ甘い匂いを吸い込みながら滝川が訊き返すと、定光は「見えるところにキスマークはつけるなよ」と囁いた。
 確かに気をつけないと、少し吸いついただけで定光の肌にはすぐに痕が残ってしまう。
「わかってるよ……」
 滝川はそう答えて、定光の首筋に手を回すと、頭を包み込むようにして、定光に首を傾けさせた。そうしてうなじを手で探り、伸びてきていた定光の襟足の髪を掻き上げた。
 定光はそうやって髪を触られるのも心地いいのか、うっとりと目を閉じる。
 滝川は、掻き上げた襟足のギリギリの部分にキュッと吸い付く。
「……ンッ、あっ……、お、おい……」
 言ってる側から明らかにキスマークを付けている滝川を責めるように、定光が横目で滝川を見上げてくる。
「ここは大丈夫だって。髪の毛下ろしたら見えねぇから」
「ホントだろうな……」
「襟足切ったら見えるから、髪、切るなよ」
「わかったって……。お前、なんでそんなに俺に髪の毛切るなって言うんだよ」
「長い方がキレイだから」
 あっさりと滝川がそう返すと、「キレイって……」と定光は少し顔を顰めた。
 定光はどこか"キレイ"という言葉は、男に対して使う言葉じゃないと思っている節がある。
 だが、定光の髪は事実として美しい。
 髪色にムラがあり、明るいブロンドのように見える毛束もあれば、場所によってはダークブラウンの毛束があったりと、まるで絵画的に見える。天然のウェーブも短く切るとキツく出てくるが、伸びてくると美しい曲線を幾重にも描いて、多彩な色の毛束をより引き立てる。
 定光は嫌がるだろうが、やはり純血の日本人には絶対に持てない美しさだ。
 滝川は、定光のTシャツの裾を捲り上げる。
 それに感づいた定光はバンザイをした。
 滝川はそのままシャツを抜き取る。
 白い胸板が現れる。
 逞しい胸筋に右手を押し当てて揉むようにすると、定光がフッと息を吐き出した後、少し苦笑いする。
 男なのに胸を揉まれているのが奇妙に感じているようだ。
 そんな定光をソファーの上に押し倒す。
 ちゅっちゅとキスを落としながらジャージを下着ごと脱がせると、「お前も……」と定光が呟いた。
「ん?」
 滝川が顔を上げると、定光が滝川の髪を手で掻き乱しながら、「新も脱げよ……」と言う。
 前回服も脱いでいない滝川に一方的に感じさせられたのを気にしているのか。
 滝川は身体を起こしてシャツを脱ぎ捨て、ジーンズを寛がせる。
 その間、身体を起こした定光が滝川の素肌の背を優しい手つきで撫でた。
 滝川が定光の方を返り見ると、定光が滝川の肩にそっと口付ける。
「……お腹の具合が良くなったら、もっとちゃんと食べるようにしろよ」
「ん?」
「お前、また痩せてきてるから……」
 滝川は下着ごとジーンズを脱ぎながら、「痩せてる俺はやなのか?」と訊くと、定光はこくりと頷いた。
「痩せていくと不安になる……。新が消えてなくなりそうで……」
 定光が滝川の背中にピタリとくっつきながら、そう呟く。
 背中から伝わってくる定光のぬくもりが、全身に染み渡っていくようだ。
 滝川はこれまで幾人もの女達と肌を合わせてきたが、こうして穏やかに、でも泣きそうな気持ちにさせられたのは始めてだ。
 滝川が太ももの側に置かれていた定光の手に触れると、定光がキュッと手を繋いできた。
 滝川が目線を上げると、目の前に定光の鳶色の大きな瞳が滝川を見つめていた。
「じゃ、ミツが俺をこの世に繋ぎとめてくれよ……」
 思わずそんな言葉が滝川の口からついて出た。
 今の滝川には別に自殺願望はなかったが、母親と暮らしている頃は何度もそんなことを考えたことがある。
 定光には、滝川の心の奥底に燻っている闇の部分を本能的に感じているのかもしれない。
 定光は一瞬泣きそうな表情を浮かべ、額を滝川の額にコツリとぶつけてきた。
「絶対にこの手を離さないから」
 定光が強い声でそう言った。
 顔を離した定光が大きな瞳を瞬かせ、滝川を見つめた後、滝川の頬に口付けた。
 そこで始めて、滝川は自分が涙を零していることに気がついた。
 自分が泣いていることに、滝川自身酷く驚いて、動揺する。
 滝川は定光の手から逃れようとしたが、定光は滝川の両頬を手で包み込み、目尻に浮かぶ涙を優しいキスで吸い取った。
「大丈夫……俺が傍にいる……。新を独りになんかしない」
「 ── バカヤロウ。これからエッチなことしようって時に、泣かすなよ……」
 滝川がそう鼻声で愚痴ると、定光は「ごめん」と苦笑いした。
 滝川は、再び定光をソファーの上に押し倒した……。

以下のシーンについては、URL請求。→編集後記

 

この手を離さない act.21 end.

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編集後記


この大人シーンに入る序盤の場面。
最初はもっと大人的表現ありで書き進んでいたのですが、途中ミツさんがこの物語の柱となるセリフを話し始めたので、急遽大人的表現を柔らかくしたりカットしたりして、本日の序盤シーンだけは大人シーンに組み込みませんでした。

多少奇妙な話ですが、国沢が小説を書いている時、たまに・・・というか割とこんな風に国沢が思っても見なかった方向に話やセリフが展開していくことがあって、書いてる本人が「え、実はアンタそんなこと考えてたの?!」って思うことがあります。
勝手にキャラが動くっていうんですかね。今回もそんなケースに当てはまります。
こういう状態になるのは、結構いい兆候だと言えます。
話の流れ的に「間違ってないんだ」と確認できるとでもいうんでしょうか。
でも、書いている国沢がこういうのは手前味噌すぎるとは思いますが、ミツさん、いい人だよね。
なんというか、可愛らしい人というか。
一生懸命さが可愛らしく思える人。
オルラブのシノさんもそういうタイプの人だったけど、ミツさんは見た目要領が良さそうなくせに、本当は不器用ってイメージで、自分の中ではシノさんとミツさんはタイプが違います。
ミツさんはどっちかっていうとシノさんより穏やかというか・・・静かなタイプっていう感じ。
一度こうと決めたら熱血街道まっしぐらのシノさんと比べ、ミツさんはスピードが穏やかなイメージですね。
受け身体質だからかな?
でも、芯が強い人が好きな国沢の好みを反映して、ミツさんもまた根っこはしっかりしてる。
そんなミツさんの愛情をゲットできた新は幸せ者だと国沢は思います。

ということで、大人シーンは、URL請求制となっています。ご請求いただいたアドレスには、当サイトの大人シーンを全て掲載していく予定ですので、一度請求するだけで当サイトに公開中の全ての小説の大人シーンが閲覧可能となります。
18禁シーンご希望の方は、画面右側の「URL請求フォーム」からお気軽にお申し込みください。

ではまた〜。

2016.9.25.

[国沢]

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