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この手を離さない title

act.87

 翌朝、まだ定光がベッドから起き出す時間より前にチャイムが鳴らされた。
 定光は、身体を起こして時計を見る。
「誰だろ、こんな時間に……。村上???」
 定光は顔を顰めながら、ベッドから抜け出した。
 振り返ると、滝川はまだ穏やかな寝顔を見せている。
 予定では、今日の午後に村上が会社の車を届けてくれることになっている。
 滝川を病院に送り込むのと、ノートに話をしに行く為だ。一応仕事扱いということで車を借りることができた。明日からの滝川の送り迎えは電車かタクシーということになる。これまで二人の交通手段は滝川のバイクだったが、今の状態の滝川は到底乗れないし、定光は普通二輪免許を持ってない。
 定光は手早く服を着ると、髪の毛を無造作に束ねながら、玄関に向かった。
 再びチャイムが鳴らされて、定光は「村上、リハビリは午後の筈だろ?」と覗き窓も見ずにドアを開けた。
「 ── タラ〜」
 そう言って目の前で両手を広げたのは、長身でひょろりとした村上とは違い、同じ背丈でもしっかりとした身体つきの赤毛の男だった。
「ショーン!」
 定光が心底驚いて大声で彼の名を呼ぶと、呼ばれた本人は大袈裟に両肩を竦めながら、「来ちゃった」と小さく舌を出したのだった。
 
 
 「ええと、これはエレナからで、こっちはエマから。それからこれはジョシュ、シシー、ダンカン、ドク、ケイト、ロザンナ、チャーリー、アラン……シンシアにリサ……あ、そうそうこれはサラから」
 お見舞いのプレゼントで埋め尽くされたダイニングテーブル上に最後に登場したのは、画用紙上にいろんな色のクレヨンでグルグルと描き殴られた歪な円。
「それ、アラタだって」
 滝川は神妙な顔つきで画用紙を手に取って、マジマジと眺めた。
「似てるかどうかは別として、かなりの力作だってシンシアが言ってた」
 定光は、サラの絵を見つめる滝川を横目で見てから、ショーンに視線を戻した。
「どうしたの、ショーン。まさか見舞いの品を届ける為に来たわけじゃないよね?」
 ショーンは呑気にテイクアウトのコーヒーを啜りながら、「もちろん」と言った。
「君達がシングル曲の仕事を降りるって聞いてね」
 その発言に、定光は驚いた。
 なぜならその話は、まだパトリック社のそれもごく一部の人間しか知らない。
 ノートにだって、今日の午後話に行くことになっている。
 それなのに、海の向こうのショーンがそれを知ってるだなんて……。
「村上がタレ込んだか」
 定光が驚いている横で、滝川がそう言った。
「アイツ、前の撮影旅行でショーンのパーソナルな連絡先ゲットしたって浮かれてたかたな」
「さすがアラタ。脳みそは相変わらず冴え渡ってるね」
 順調に回復してるみたいで嬉しいよ、とショーンはニコニコ笑う。
「い、いやショーン。笑ってる場合じゃないだろう? シンシアの旦那さんとの仕事は?」
「ああ、そっちはもうほとんど終わりかけてたんだけど、急遽予定が変わって」
 定光は、その発言に気色ばむ。
「予定変更? まさかシングル曲を出さないとかって言い出すんじゃ……。そりゃ一度引き受けた仕事を投げ出そうとしてる俺がとても言えた義理じゃないけど、次のシングル曲は絶対に出さなきゃ今後に大きな影響が……」
 ショーンは上目遣いで定光を見返して来た。
「そんなに慌てないで、ミツ。僕は君を責めに来たわけでも、僕のエゴを通す為に来たわけでもない。 ── シングル曲は出すよ。ちゃんとね」
 ショーンがそう言ったことにほっと胸を撫で下ろした定光だったが、ショーンが続けて「ただ方法を変えるというか、形態を変えるというか」と付け加えたので、再びギョッとした。
「え? それってどういう……」
「僕の名前で出ない。いや、しっかりクレジットはされるけど、僕がメインじゃないっていうか……」
 定光はますますわからなくなって、目を白黒させた。その横で冷静な顔つきの滝川が口を開いた。
「誰かの曲にお呼ばれしたか?」
「惜しい! でもほとんど正解」
「え? どういう……」
 会話のスピードについていけていない定光は、何度も二人を見比べた。
 ショーンは少し姿勢を正すと、「ごめんね」と謝った。
「ムラから、ここ数日起こったことを聞いたんだよ。君達がどれだけ追い込まれて、苦しい思いをしてきたか。僕が君達じゃないと嫌だって言ったことが、君達に大変なプレッシャーを与えることになるなんて、思ってもみなかったんだ。僕は日本人の生真面目さを完全に理解していなかった。僕がアルバム制作の時計を止めることによって、ゆっくりと養生してくれると思ってたんだけど、まさか逆の結果が返ってくるなんてね」
「 ── ショーン、それは……」
「最後まで聞いて、ミツ。今回のことは、皆に少しずつ問題がある。 ── アルバムを出さないとゴネた僕にも問題があるし、アルバムを単なるビジネスの道具として捉えているノート側にも問題がある。もちろん、不可能だと思われることを無理に抱え込んだミツにも、皆の期待に応えようとして無理をし過ぎたアラタにだって。皆少しずつ。
 ただ救いは、すべて互いが互いのためを思ってしたことだ。ノートは現時点でどう思ってるかわからないけど、少なくとも、僕もミツもアラタも、この場にいる皆が相手のことを思いやったからこそ、こういう結果になった。だったもう、それでいいじゃないか。そういうことであれば、互いに謝り続けるんじゃなくて、後は前を向いて、このピンチをどう切り抜けるかを考えればいい。そう。だから僕は考えたんだ。そしていい方法を思いついた」
 ショーンはそう言うと、カバンから愛想のない表紙の冊子を取り出した。
 怪訝に思い、その表紙を眺めた定光の横で、滝川が「マジか」と呟いた。
「映画のサントラやるのか?」
 ショーンは頷く。
「正確には、エンディングテーマ曲だけだけど。でも映画の公開後にシングルカットされる予定だから」
 本の表紙には、定光でも知っているファンタジー大作のロゴマークが印刷されていた。中を覗くと、どうやら映画の脚本のようだ。
「ウソだろ……これ……凄く有名な映画の……」
「そう。続編。もう既に撮影は終わっていて、編集作業の真っ只中。僕は脚本を読んだ後、その時に撮り終わってたいくつかのシーンも見せてもらって、歌詞と曲を書いた」
 定光は信じられないといった顔つきでショーンを見た。
 一方ショーンは、いつもと変わらない様子で「前作もかなりヒットしたから、今作もいい線いくんじゃないかな? 脚本も凄くよかったしね。だから、エンディング曲も結構売れるんじゃないかなぁ。皆にウケがよければ」と陽気に話している。
「そ、それはそうだけど、何でいきなりそんな仕事……」
「元々オファーが来てたんだよ。監督のグラハムはアメリカ人じゃないから変なバイアスがかかってなくて、直々に連絡が来た。でも僕は自分のアルバム制作があるから、曲だけ作ることで勘弁してもらって、そこから先はジェーンとルイに任せてたんだ」
「ジェーンって、ジェーン・モリーン?」
「そうそう。僕ら、ルイを通じて仲がいいんだよ。あまり世間では知られてないけど」
 次々とビッグネームが飛び出して来て、定光の目は白黒してしまう。
 いつものショーンがあまりに素朴なイメージが強いので錯覚してしまうが、やはりショーンは大スターで、華々しいショービズの世界で生きているのだと実感させられる。
「じゃ、曲提供だけで終わらせないことにしたってことか」
「そう。ジェーンとグラハムに思い切って相談したのが昨日のことで、事情を話してジェーンとデュエットしたいとお願いしたら、二人とも即座に二つ返事を返してくれたよ。アコースティックギターのパートも僕に弾いてくれって。それぐらいはお安い御用さ」
 物凄く大きな話がこともなげに語られていく様を見て、定光は開いた口が塞がらない。反対に滝川はヒッヒッとお得意の引き笑いをしている。
 ショーンは興が乗ってきたようで、カバンからペンと大振りのメモ帳を取り出すと、それに図を書き込みながら、「我ながらいいアイデアだと思ってさぁ!」とマシンガントークを始める。
「映画の公開時期は年末だから、本来予定していたシングル曲の発売時期より遅れるけど、シングル曲のジャケットデザインも映画制作側がしてくれるし、何よりPVもほとんどが映画のシーンだから、その点も心配ない。少し僕とジェーンの映像も欲しいらしいけど、一日で撮影が終わる程度だろうからそれも問題なし。PVは映画公開より前から配信を始めるから、実質発売時期のタイムラグは問題にならない。映画がヒットすれば、エンディング曲もたくさんメディアに扱われる。元々次のシングル曲の目的はアルバム発売の前宣伝なんだから、映画のエンディング曲でも十二分に役割を果たせるでしょ? むしろこっちの方法の方が、売り上げ的には成功するかもね。このアイデアにノートが乗っからないはずがないよ。
 これで時間稼ぎをしている間にアラタは身体をゆっくり治せばいいし、ミツは撮影旅行から帰ってきてからジャケットデザインの仕事をすればいい。何なら予定していたシングル曲をアルバム発売の直前に出したっていいんだ。それだけ時間があれば、アラタだって身体を治しながら仕事にも復帰できるかもしれないでしょ?」
 ね?と小首を傾げるショーンを、定光は上目遣いで見つめた。
「話はよくわかったけど……最後のコメントからしてノート側にはこのこと……」
「これから言うんだよ。だってミツ、午後からミスター・クボウチのとこに行くんでしょ? 僕も一緒に行く。まとめて話ができて好都合だと思ったから、昨日慌てて飛行機に飛び乗ったんだよ」
 定光は複雑な思いにかられて、ギュッと目を瞑った。
 横では、滝川が腹を抱えて笑っている。
  ── 久保内さん、また黙って話を進められたって、怒らないかなぁ……
 定光は、思わずズキリと痛む眉間を指で強く摘んだのだった。
 
 
 ショーンの素っ頓狂な……それでも確実に金になる代案を聞かされた久保内は、とてもじゃないが一言では言い表せないような複雑な表情を浮かべていたが、結局は強引なこのプラン変更に頷かざるを得なかった。
 下手したら、ショーンが単にシングル曲を出すより宣伝効果が高いかもしれないからだ。
 曲提供のロイヤリティーについては、これから映画制作会社側とノートで法的なツメがなされるのだろうが、ショーンが始めてデュエット曲を出すというだけでも話題なのに、その相手が飛ぶ鳥を落とす勢いのジェーン・モリーンと言うのだから、世間は騒然となるだろう。彼女もまた人気の大ヒットメーカーなので、仮に映画ネタ抜きだったとしても絶対に注目される。PVにも二人揃って出るとなれば、見目麗しい二人の共演シーンは映画シーン以上に動画再生されることになるだろう。そうなれば映画にも必然的に注目が集まるのだから、見事なwin-winの関係が成立する。
 確かにノートが拒む理由は、どこにもなかった。

 

この手を離さない act.87 end.

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編集後記


さてさて。
今週の「おてて」は、久しぶりのショーン登場。
相変わらずの暴れっぷりでございます。

まぁでも、久しぶりといっても80話に出てるんだから、そんなに久しぶりでもないかwww
彼、どんだけ飛行機乗ってるんでしょうね?www

ちなみに、ショーンの言ってた映画のモデルは、「ホビット」をイメージしてます。
ミーハーで、すみません(大汗)。

さらに曲のは、「ホビット」第2話のエンディング曲をイメージしてます。

ミーハーで、マジすみません(滝汗)。

なんだかどっかの誰かの怒られそうだ・・・。

でも「ホビット」では、エド一人で歌ってる曲でしたが、「おてて」ではデュエットになっています。 なお、ジェーン・モリーンのイメージはテイラー・スウィフトあたりですかね。
スーパースター同志のデュエットをイメージしています。 そこら辺はフィクションなんで、大目に見てもらえたらと思います。

さてさてさて。
先週はゲーム・オブ・スローンズのことを取りあげましたが、今日は「ホビット」がまた話題に出てきたので、そちらの方を。

忘れないうちに「ホビット」の萌えポイントを書いておかねばwww
てか、もう忘れかけているwww

今日は、国沢が感じた眉毛王・・・というか、その中の人、リー・ペイスの魅力について。

久しぶりに正統派の美形俳優さんで萌え萌えしたなぁ。
リー・ペイス。
ここのところ、雰囲気ハンサムさんに萌え萌えすることが多かったので、新鮮でした。

特殊メイクがないとこんな感じ↓なんですが、



気を許すと髭がボウボウになって、一切のスターオーラがなくなるのも愛すべきポインツwww


段々もっさい時のリー・ペイスの方が好きになってきたwww
とはいえ、リーさんのデビュー仕立ての頃のお写真は、破壊力満点の美形振りです。


本当に正統派の美形。
共演する女優さん達が、リーのハンサム振りにワキワキしすぎて演技に集中できないから、一旦部屋の外に出て欲しいと監督に直談判されるようなことも過去にあったとかwww

なんて恐ろしい子・・・!(バーイ 月影先生)

トラディショナルな美貌を誇るリー・ペイスさんなんですが、これまで演じてきた役柄を見てみると、意外にトリッキーで演技力を問われる役をしてることが多いんですよね。
そして、それらに共通する項目としては・・・

特殊メイク系、多くない???www

映画デビューから、いきなりトランスジェンダー役。


普通に女子にしか見えないけど、これwww
しかも、めちゃキレイなおねぇさんにしか見えないwww
でも立つと身長が190cm超えの巨人ぶりなので、明らかに男性だってわかります。

その後、一歩変わった映画を撮ることで有名なインド人監督ターセムの映画「The Fall」で、かの石岡瑛子氏の芸術的な衣装をサラリと着こなし・・・


そして「ホビット」でエルフの王様役にて人間離れした美しさを表現したと思ったら・・・


最後に、もはやリー・ペイスでなくてもいいじゃんって突っ込みたくなるような宇宙人を演じてしまうオチャメさを発揮(大爆笑)。


誰ですか? あなたwww

いや、もちろん、普通の人間役の映画やドラマもご出演なさってますwww
ご安心ください(笑)。

でもリー・ペイスの良さって、特殊系の役柄の方が発揮されるのかもしれませんね。
「The Fall」は、映像美が美しすぎて、すぐにDVD買っちゃいました。
本当はブルーレイがほしかったけど廃盤になってて、物凄く価格が高騰してた(汗)。
しかしDVDでもリー様の美しさは堪能できました。


この映画をピーター・ジャクソン監督が見て、スランドゥイル役に抜擢したんだよね、確か。
一番下の上目遣いの写真なんか、なんだかちょっとダイアナ妃を彷彿とさせる美しさ。

でも国沢がリー様を思う時、一番魅力的だって感じるのは、

リー様のポカン口。


・・・・・・。

え? 意味わかんないっすか?www

いやいやいや、奥様。
彼のポカン口は、完璧な美しさと可愛さを誇るんですよwww
では、国沢がこれだと思う、リー様のポカン口写真を、ご紹介。

まずはおなじみのスラ様ポカン口。


テレビドラマ「プッシング・デイジー」での愛すべきポカン口三連発。


最後に、「The Fall」での完璧な美しさを誇るポカン口。


ま、ようするに唇の形が国沢の好みのど真ん中ってことですねwww

ではラストは、国沢が眉毛王ことリー様にハートを射抜かれた、映画「ホビット」でのオフショットでお別れ。


ずきゅーん!!!www

ではまた。

2018.2.11.

[国沢]

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