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nothing to lose title

act.62

<side-SHINO>

 翌朝目覚めると、俺はベッドから起き上がって暫しボーッとしてしまった。
 やはりなんだか、身体がだるい。
 夕べは勢いに任せて千春と最後までエッチをしてしまった。しかも、抱かれる側で・・・。
 寝室の中に既に千春の姿はなく、その代わりぷ~んと味噌汁の香りが漂ってきた。
 その途端、腹の虫がギュルギュルと盛大に鳴る。
 夕べだって満腹になるくらいご飯を食べたけど、その後都合二回もエッチをしてしまったから、エネルギーはほぼそれで使い果たしたみたいだ。
 身体がだるいのは、受け身のセックスをしたせいもあるけれど、エネルギー切れなのかもしれない・・・。
 そう思っていたら、千春が寝室の引き戸を開けた。
「シノさん、起きた? おはよう。身体、平気?」
 矢継ぎ早にそう訊かれる。
 俺は頬が熱くなるのを感じながら、「身体どうこうより、腹が減った」と答えた。千春の表情が綻ぶ。
「ご飯、炊けてますよ」
 おお。朝から炊きたての飯を食べられるとはありがたい。
「もうちょっとで朝ご飯の支度は終わります」
「そう? じゃ、顔洗って着替えるよ」
「ん」
 千春が姿を消すのを見てから、俺はベッドから立ち上がった。
「う」
 思わず腰に手が行く。
  ── やっぱりソコがジンジンとしてる・・・(汗)。
 腰全体も何だかズシーンと重くて。
 ま、そりゃ普通そんな風に使わないところをそういう風に使う訳だから・・・ごにょごにょ・・・。
 去年の俺は、まさか自分がこんなことになっているなんて想像もしてなかった。
 まさか、千春に抱かれることになるなんて。
  ── しかも、千春には言ってはいないが、千春に本当に大切に愛されるっていうのが凄く心地いいって感じてるだなんて。
 千春に抱かれる前はあんなに抵抗感を感じていたくせに、今では抱かれる側もいいよなって思ってる自分がいるのが驚きだ。俺ってば、千春より随分と年上なのに(大汗)。
 俺、随分と遠くまで来ちゃったなぁ・・・。
 正直、身体全体が熱っぽかったが会社を休む訳にもいかず、俺は何とかソロソロと洗面所まで行って髭剃りを済ませると、寝室に戻ってスーツに着替えた。
「やっぱり身体、辛いんじゃない?」
 俺の緩慢な動きを見てたのか、千春がふいに背後から声をかけてきた。
 俺は振り返る。
 心配げな表情の千春。
 大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないってちゃんと言うって約束を昨日した。
「うん、まぁ確かに身体はいつも通りにはいかないな。でもこんなことで会社を休む訳にはいかないから」
 俺が正直にそう答えると、千春は少し微笑んでネクタイを締めるのを手伝ってくれた。
「本当は僕が朝、車で送って行ければいいんだけど・・・。午前中に取材が入ってるんですよね。申し訳ない」
「そんな、いいよ。はなから送ってもらうつもりはないから。先に出るんだろ?」
「ええ・・・」
 そう言いながら千春は大きな溜め息をついた。
「僕の仕事なんて、本当はどうでもいいんですがね。どうしても断れない仕事らしくて・・・」  
 俺は拳で千春の胸をグイッと押した。
「この世の中にどうでもいい仕事なんてないよ」
 千春はバツが悪そうな顔をして「そうですね・・・。ごめんなさい」と謝った。
「時間がないのに朝飯作ってもらって悪いな」
「何言ってるんですか。僕にできることはこんなことぐらいしかないから。さ、早く冷めないうちに」
「ああ」
 テーブルの上には、炊きたてのご飯と厚焼きの卵焼きにしめじとほうれん草とトマトの炒め物、タマネギの味噌汁、作り置きの常備菜がずらっと並んでいた。
 ヨボヨボとした動きの俺を千春がさり気なくサポートしてくれて、やっと椅子に座る。
「うまそう。いただきます」
「いただきます」
 その後千春は、俺が食後のお茶を飲んでいる間に出かける準備をする。
「食器は流しに入れておいてください。ゴミ出しは僕がしておきますから、シノさんはそのまま会社に行って。帰りは車で迎え行きますから、仕事が終わったら連絡ください。いいですね?」
 出際にそうまくしたてて千春は出て行った。
 本当に千春はちゃんとしてるよなぁ・・・。生活力が逞しいというか。そこら辺は、千春のおばあちゃんがきちんとした人だったんだろうなぁと思う。
 俺の家はお袋が俺達兄妹を甘やかして育ててくれたから、両親が亡くなった当初は何にもできなくて酷く困った。
 二人が駆け落ち婚だったためか親戚付き合いも一切なかったから頼れる身寄りもなく、結局は父親の会社の同僚さん達に随分と助けられた。
 しかしそれも、家族四人で住んでいた借家が父親の生命保険のお金だけではやがて家賃も払えなくなると思い、この部屋に引っ越してから徐々に疎遠になってしまった。
 その後しばらくは、なかなか荒れた生活となってしまった訳だが・・・。
 でも今にして思えば、このマンションに引っ越してこなければ千春と出逢うことはなかった訳で、それを思うとやはり運命だったんじゃないかと思う。
 両親が亡くなったことにも意味があり、このマンションに引っ越してきたことにも意味がある。
 その話は夕べ千春に訊かれて、思わずポロリと言ってしまったけれど、これまでそんな話を他の人にしたことはなかった。だから、そんなことをわざわざ話したのは少々照れ臭い・・・・。
「さ、会社、早めに行こうかな」
 俺はいつもより早めに家を出た。
 家のドアを締めて鍵をかけたところで、思わず腰に手をやる。
 う~ん・・・、やっぱ一日こんな感じなのかな。
 そう思ったところで、不意に隣の部屋のドアが開いた。
 思わずドキリとする。
 千春がその部屋に住んでいた時のことを思い出したからだ。
 でも実際そこから出てきたのは小柄な女性で。
  ── 確か・・・看護師さん。
 向こうも図体のデカイ俺がヌボーっと立っていてビックリしたのか、一瞬目を大きく見開いて俺を見た。
 もろに視線が合って、俺は思わず「お、おはようございます」と反射的に言う。あちらも同じように「おはようございます」と返してくれた。手にはゴミ袋。どうやらゴミ出しをしてから後のご出勤らしい。
 彼女はゴミ袋を身体の後ろに隠すようにすると、テレ腐そうに「ハハハ、どうも・・・」と笑顔を浮かべた。
 俺も会釈をして、エレベーターホールを目指す。
 だが、ぎこちない歩き方をしている俺にすぐ気がついたらしい。
「どこかお怪我されてるんですか?」
 エレベーターホールでそう訊かれた。
 思わずどう答えていいか躊躇ってしまう。
 顔を見合わせると、俺もさっきの彼女のように「ハハハ」と空笑いする。
「いやぁ、腰痛持ちなんですよ。重い物を持つことが多い仕事で・・・」
 エレベーターが来たので、二人で乗り込んだ。
「お仕事、何をされてるんですか?」
「あぁ、酒の卸売り業です。営業職なんですけど、お得意様にビールケースを届けることもあって」
「大変ですねぇ。腰痛はきちんと治しておかないと、ヘルニアとかになると大変ですよ」
 普通に心配されたので、何だか申し訳ない気分になる。
 なので思わず、「いや、いつもはさほどでもないんですけどね。今日はたまたまなんですよ」と言った。
「そうなんですかぁ・・・。それなら余計に気をつけた方がいいですよ。ギックリ腰になったら大変だから・・・。ちなみにもう一人の男性の方は弟さんですか? そちらの男性の方とはよくお会いするんですけど」
「え? ああ。いや、弟ではないです」
「そうですよねぇ! あまり似てらっしゃらないから、不思議に思っていて・・・。じゃぁ・・・」
 答えを促すような表情で見つめられる。
 俺も何となくゆっくりと頷きながら、「・・・友達・・・です」と答える。
「あ、お友達なんですねぇ。よく泊まって行かれるから、てっきり親類の方かなって思ってましたぁ」
 お隣さんはそう呟きながらしばらく考え込んだような表情を浮かべ、黙り込んだ。
 なんか俺、変な風に答えちゃったかな。
 千春には、余所で二人の関係を訊かれた時は「友達答えておけ」と言われてるんだけど。
 エレベーターが1階につき、戸が開く。
「お先にどうぞ」
 俺が開くボタンを押してそう声をかけると、お隣さんは「どうも、ありがとうございます」と会釈をしながら、箱の外に出る。
 あ、ゴミ袋、忘れてる。
「あ! ゴミ袋!」
 慌てて俺が袋を掴み彼女の方に差し出した途端、身体を急に捻ったのがマズかったのか、腰の奥がズキリと痛んだ。
「あいててててて・・・」
「あ! すみません!! 大丈夫ですか?」
 一先ずお隣さんに手を取られ、箱の外に出る。
「ここが痛いんですか?」
 背中の骨盤付近を撫でてもらう。
 が、本当に痛いところはソコではなく。でも、そんなこととてもじゃないけど、言える訳もなく。
 これまで痔にはなったことないけど、きっと痔の酷いのって、こんな感じなのかなぁって思ったりして。
「いや、もう、ホント、大丈夫なんで・・・。ありがとうございます・・・」
「随分腰を酷使されたんですねぇ」
「い、え?! え、ええ! ま、まぁ! そ、そんなこともないですよ!!」
 何気なくそう言われ、俺はモロに夕べのことを思い出してしまった。
 顔が一気にカッカと熱くなる。
  ── うわ~、何やってんだよ、俺! 絶対不自然に思われるだろ~~~~
 案の定、お隣さんはきょとんとした表情で俺を見たが、ふいに俺の赤面が彼女にうつったかのように顔を赤くした。
「そ! そうなんですね! い、いや、まぁ・・・、お大事に~~~~」
 彼女はそう言って、サササササーとマンションのエントランスから出て行った。
 う~ん・・・大丈夫だったのかな? いや、大丈夫じゃなかったのかな・・・?
 でもま、まさかバレてないよな。
 普通、こんな図体のでかい男が年下のイケメンに抱かれてこうなった、なんて思う人、いないだろうし。
  ── いや、いるわけないって。

 

here comes the sun act.62 end.

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編集後記

あなた、バレてますから~~~!!

夕べの夫婦の営み、しっかり聞こえてますから、お隣にwww

ただ、お隣さんの頭の中でいろんな謎のピースがバラバラだっただけで、シノくんの赤面顔ですべてのピースが埋まりました(大笑)。

なんだかここのところ辛い展開ばかりだったので、ちょっとほんわかしたいと思い、本日はなんのことはない日常の一場面をしつこく書いてしまいました。
次週もひょっとしたら、こんなテイストになるかも・・・。

最近では、仕事が忙しくなってきて、トンの動向をおっかけることが難しくなってきてます。
その代わりの燃料と言ってはなんですが、近頃CMに引っ張りだこの男前・西島さんのナショナル家電に萌え萌えな国沢です。
だってあの人、もろにシノくん臭がするんですもん(笑)。
ラ王のCMのうまいものを前にした笑顔も、千春の手料理を前にした時の顔って感じがして仕方がないwww
仕事が忙しくて時間がなくとも、妄想だけはもりもりしている国沢です。

[国沢]

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