act.29
<side-CHIHARU>
シノさんのキレイな手が、僕のシャツをギュッと掴んで、シノさんは「抱いてほしい」と僕に言った。
その表情が凄く切なくて、シノさんが本気でそう言ってくれているのがわかった。
たまらなく嬉しかったけど、でも、シノさん今具合悪いの、自分でわかってる?
僕は再びシノさんに向き直ってベッドに腰を下ろすと、シノさんの頬を撫でた。
「凄く嬉しいよ、シノさん。そう言ってくれて・・・」
シノさんが、なんだかほっとしたように表情を緩ませた。
彼は目を閉じると、左頬を包んでいた僕の手に顔を擦り寄せる。
僕はたまらなく切なくなって、シノさんの瞼に小さなキスを落とした。
「でもシノさん、今は身体が弱っているから、ダメだ」
シノさんが目を開いて僕を見た。
明らかに悲しげな顔をした。
僕は、両手でシノさんの肩を撫でながら、言い聞かせるように「男同士のセックスは、抱かれる側に凄く負担がかかるから」と言ったが、シノさんは首を横に振った。
「それでもいい。今、抱いてほしい」
突然シノさんの瞳が、強い光を放った。
今までずっと、熱に浮かされてふわふわした目の色だったのに・・・。まるで別人みたいだ。
── ああ、忘れてた。
シノさんはこうと決めたら、僕なんて足下にも及ばないくらい意思が強い人なんだってこと。
僕は、あの夜のことを思い出していた。
去年のクリスマス。
巨大ツリーから空中を滑って、シノさんが僕の腕に飛び込んできてくれたあの日。
あの日もシノさんは、今見たいに強い瞳の色で僕を見て、僕の魂を揺さぶった。
シノさんには言ったことがないけど、シノさんは、この世の中で唯一、僕がコントロールできない人。
今も僕が「シノさん、でも・・・」と言い淀んでも、シノさんは首を横に振った。何度も、強く。
僕は思わず苦笑いして、溜め息をついてしまう。
「もう・・・、本当に困った人ですね。頑固なんだから」
シノさんは、熱の残りなのかちょっと緊張しているのか、胸を大きく喘がせてハッと息を吐き出すと、「うん。俺は凄く頑固なんだ」と言って、僕の両手を握った。
「身も心も、本当にフェアな関係になりたいって、今凄くそう思ったから。だから必要なんだ。俺に取って」
シノさんが言ったことに胸が熱くなって・・・でも、同時に、もうこの人って、本当にどうしたものかしらとも思ってしまった。僕をこんな気持ちにまで、させるなんてさ。
── ああ、本当に、本当にいとおしいよ、シノさん。
僕は、両手でシノさんの頭から顔、肩を撫でた。
シノさん、身体がガチガチになっていた。
「あのね、シノさん。セックスは、理屈でするものじゃないですよ。こんなに身体を硬くしてするものじゃないです」
ふいに強い表情を浮かべていたシノさんが、急に気弱になった。
「 ── ごめん・・・。でも、俺、俺・・・」
シノさんの顔がくしゃりとなって、僕はたまらずシノさんを抱きしめた。
シノさんも僕の背中を両手を回して、再びギュッとシャツを掴む。
まるで子どものような仕草。
普段男らしい人なだけに、こんな風にされると、それだけでたまらなくなる。
「・・・千春! 千春・・・」
ああ、またシノさん、泣いてるかもしれないって思ったら、僕も胸が苦しくなって。
シノさんの後頭部から首を何度も撫でた。
「・・・うん・・・、そうだね、シノさん。僕だって、たまらなく今、シノさんが欲しいよ・・・」
シノさんの身体から香るシノさんの汗の匂いが、僕の鼻をくすぐった。天然の媚薬だ。
僕は意を決した。
別に最後までする=セックスというわけじゃないし、きっとシノさん、これだけ体力が弱っていれば、二、三回イクだけで、きっと睡魔に襲われるはずだ。というか、そうさせる自信、僕にはあるし。
正直、確かにシノさんを最後まで抱きたい欲望はMAXだったが、僕はもうその欲望だけをむき出しにしてセックスをする人間ではなくなっていた。
本当にシノさんのことが大切だから。
だからシノさん、メチャメチャ感じさせるから、覚悟してよ。
<以下のシーンについては、URL請求。→編集後記>
here comes the sun act.29 end.
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編集後記
シノさん、決死の覚悟でございます。
こうと決めたらガンとして譲らぬ男。そういう男です、篠田俊介。
とはいえ、やっぱり千春からはダメ出し。
ということで、もろネタバレですが、今回は最後までいたしておりませぬ。
ま、けれどもシノさん初めての受け身のセックスで、最後までしてないくせに大人シーンは随分長丁場になってしまいました(汗)。
しかも、シノさん目線。
わぉ~~~~~って感じです。
国沢、どこまでエロに対して粘着質なんでしょう(大汗)。
先頃誕生日も迎えまして、「さようなら、サーティー」と相成った訳ですが、その新しい世代に入っての記念すべき一回目の更新が、「エロ」っていうのが、もうなんかこうね・・・。
国沢の人生を表しているようで、笑ってしまいます。なはははは~。
そして今回、大人シーンを書くにあたって、これまでの設定を一部変更しました。
シノさん家のお隣さんですけれども、オルラブの最後らへんでは「保母さん」という設定になっていましたが、今回「看護師さん」に変更しました。
大人シーンのやり取りの中でちょっと流れが悪くなって・・・。
すみません。
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[国沢]
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