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nothing to lose title

act.51

<side-CHIHARU>

 翌朝。
 土曜日だったけれど、僕は早めに目を覚ました。
 隣では、シノさんがスースーと心地良さそうな寝息を立てて眠っていた。
 僕はそれを確認して、ほっと溜め息をつく。
 夕べシノさんは終わった後に少し意識を飛ばしてしまったから、ちょっと心配してたんだ。
 シノさんはミネラルウォーターを飲んでる間にそのまま寝てしまったから、その後彼の全身をタオルで拭いて、例の場所も調べたけど、幸い長い時間かけて解した甲斐があったのか、怪我をしている様子はなかった。
 けれど、普段とは違う使い方をされたそこはちょっと赤くなっていて、腫れぼったい感じだったから、念のため軟膏を塗っておいた。
 僕も最初に経験した時は翌日も結構痛くて大変だったから、シノさんもきっとそうなるだろう。
 今週シノさんがきちんと週休二日でよかったと内心胸を撫で降ろした。今日もし仕事だったら、シノさんは間違いなく休みを取らないとダメだろうから。
 身体を起こして、そっとシノさんの首元を触る。
「・・・う~ん・・・、やっぱりちょっと熱を持ってるかなぁ・・・」
 いつもより体温が高い気がする。
 熱が出なければいいけど。
 そう思いながら、僕は自分に驚いていた。
 やっとかねてから念願だったことが夕べ叶ったというのに、僕は冷静にシノさんの身体の具合をチェックしている。
 本当はもっと天にも昇るような ── もっとも夕べしっかりとシノさんの中で天にも昇る心地を味わったのだが ── テンションになって狂喜乱舞するかと思っていたが、意外にも静かというか・・・穏やかな朝を僕は向かえていた。
 やっとシノさんを男として抱けて嬉しくない訳ではない。いや、寧ろ感慨無慮ってこのことだよなって思ってる。
 でも・・・その喜びが『静か』なんだ、とても。
 凪いだ海が優しく波打ち際を揺らしているように、喜びが身体の奥からジワリを押し寄せてくる感覚。
 なぜそうなのか、自分でもよくわからなかった。
 遊んでいる頃は、意中の男を上手く口説いて、僕の意のままに抱くことができた翌朝は、なんだか楽しくてしょうがなかったけど。でもその楽しさは一過性のもので、相手に飽きるとそんな楽しさはすぐに消えた。
 夕べのシノさんは、これまで抱いてきた男達と比べても、身体が硬くて開き方もかなり遅く、言ってしまえば「具合のいいセックス」ではなかったけれど、今感じている幸福度合いが比べ物にならないくらい凄い。
 穏やかなんだけど、幸福感が深い。
「なんか・・・やっぱりこの人は特別なんだよね・・・」
 と、僕は思わず呟いていた。
 僕の知らない僕を発見させてくれるのは、いつもシノさん。
 シノさんだけだ。
 少し産毛の生えたするんとした頬に軽くキスを落とし、僕はベッドから抜け出した。
 今日一日、シノさんのお世話をするために準備をせねば・・・。
 僕はそう思いながら、大きく背伸びをした。  
  
  <side-SHINO>

 目を覚ますと、案の定隣に千春はいなかった。
 セックスをした翌朝は、大概千春の方が先に起きていることが多い。
 ぼんやりと周囲を見回して、ああ、夕べは千春の仕事場に泊まったんだ~・・・なんて呑気に考え、寝返りを打った途端に夕べのことをはっきりと思い出した。
 な、なんだか腰の奥がドーンと重い。
 その疼痛の原因がなんであるか思い出した途端、起きた直後だというのに顔がカッカして熱くなった。
  ── 俺、つ、ついに千春に抱かれちゃったんだよなぁ・・・。
 誰に見られている訳でもなかったけど、俺は思わず恥ずかしくて両手で顔を覆った。
 デカイ図体の俺が、そして千春よりずっと年上である俺が、まるで女の子みたいに千春に優しく抱かれてしまった。
 メチャメチャ恥ずかしい・・・。
 どうしたらいいんだ、俺。
 俺、夕べちゃんとできてたんだろうか? 
 最後の方は、何だかよく覚えてない・・・。
「シノさん、起きた?」
 ドアが開いて、千春が顔を覗かせた。
 このシチュエーションは、前に俺が熱を出した時の翌朝と同じ状況だったけど、前のは最後までしていなくて今は最後までしたってところが大きく違っていた。
 やっぱり前の時より恥ずかしさが倍増していて、俺は思わずシーツを顔の前まで引き上げた。
「やだな、シノさん、またかくれんぼ?」
 千春が笑っているのがわかる。
 シーツの上から、指で突っつかれた。
「身体の具合が悪いの? それとも恥ずかしがってるの?」
 前もそんな風に訊かれたっけな。
 でも「具合が悪いなら言って」と再度言う千春の声は、前とは違って真剣だった。
 俺は、ベッドの上に身体を起こした。
 ううう。腰がおも~~~~~・・・となりながら、ベッドの縁に腰掛けている千春の顔を見つめてニカッと笑い、「大丈夫」と答えた。
 千春はすぐさま口をヘの字にして、俺の膝小僧辺りをピシャリと叩くと、
「嘘おっしゃい」
 と手厳しいひと言を返してきた。
「そんなにぎこちなく身体を起こしておいて、大丈夫、はないでしょ? 正直に言ってくれなきゃ困ります」
 作り笑いだってこと、見抜かれてたか(大汗)。
「とにかく、恥ずかしいのはわかりますけど、無理はしないでください。朝食はここに持ってくるから、最低でも半日はベッドの上で過ごして」
「は、はい。わかりました」
「シノさん、トイレは? 行かなくて大丈夫?」
「えっ?」
 俺が思わず答えに詰まると、千春は軽く溜め息をついて、こう言った。
「トイレはさすがにここでとはいきませんからね。多分朝のうちは歩くのが厳しいだろうから、トイレまでつきそいますよ」
 ううう、なんだか俺、要介護老人みたい・・・。
 俺が渋い顔をしていると、千春は苦笑いした。
「僕もそうだったんですよ、初めての時は。だから言ってるんです」
 そんなものなのか・・・。
「じゃ、ちょっと、行こうかな」
「わかりました」
「あ! ちょちょちょっ! は、裸で行くのはさすがに・・・。なんか着るもの頂戴・・・」
 俺がそう言うと、そこでやっと千春の笑顔が見れた。
「そう言えば、そうでしたね。ま、僕はシノさんが今日一日裸族で過ごしてもらっても、全然大丈夫ですけどね。服、出しますから着終わったら声をかけてください」
 千春はクローゼットからTシャツとパンツ、ゆったりとしたインド綿のズボンをベッドの上に出して部屋を出て行った。
 確かに千春の言うように、身体を動かす度に腰の奥からど~んとした痛みが沸き起こってくる。
 別に耐えきれない痛みではなかったが、普段あまり感じたことのない痛みだったので戸惑ってしまった。
 服を着るのも、予想外に時間がかかってしまう。
 ベッドの上で七転八倒しながらなんとかズボンまで履いて千春に声をかけると、すぐに千春が来てくれてベッドから立ち上がるのを手伝ってくれた。
 腰を押さえつつ歩き出して、また顔が真っ赤になる。
 なんだかソコに、まだ何かが挟まってるみたいなんだ!
 うううううとなってる俺を見て、千春がニヤリと笑い、俺の耳元でこう囁いたのだった。
「僕がまだそこに入ってるみたいでしょ?」
 !!!!
 俺はやっとの思いで千春に肘鉄を食らわせたのだった。

 
 その後、千春の宣言通り、午前中はベッドで過ごした。

 朝食は、たっぷりの蜂蜜とバターが塗られたホットケーキ四枚とフルーツ、ブルーベリーソースのかかったヨーグルトにニンジンとセロリのピクルス、ちょっと大きめのハーブが入ったソーセージがこんがりと焼かれて三本。それにたっぷりのカフェオレが添えられていた。
 千春は、俺が意外にホットケーキが好きなことをよく知っている。
 千春は「パンケーキだ」って言い切ってたけど、これってホットケーキだよな?
 お昼は動かなかったせいかあまりお腹が空いていないということで、二人で軽く出汁茶漬けを食べた。
 目の前でサラサラとお茶漬けを食べている千春を見つめ、俺はなんだか申し訳ない気分になっていた。
 何でかって、現に今、椅子に座ってる間も腰が痛い訳で、たった一回受け身のセックスしただけでこんなになるんだから、いつも受ける側のセックスを受け入れてくれてた千春にこんな思いさせてたんだと気づいたからだ。
 俺がモソモソとお茶漬けを食べていると、千春は「シノさん、大丈夫? まだベッドに横になってた方がよかったかな・・・」と訊いてきた。
 俺は首を横に振る。
 腰は痛かったけど、耐えられない程ではなかったし。
 それよりも、悪いなぁって気持ちが大きくて。
「千春・・・ごめんな・・・」
 思わず俺がそう呟くと、千春は「なにシノさん、しょぼ~んってなってるの?」と返してくる。
「いや、だっていつも千春が今の俺みたいな思いをしてるんだって思ったらさ・・・」
「僕の苦労、わかってもらえました?」
「う、うん・・・。ホント、気づかなくて申し訳ない・・・」
「じゃ、今度からセックスは代わりばんこ交代でいいですか?」
「え! えっと、それはぁ・・・」
 俺がどう答えていいか、しどろもどろになっていると、千春はプーッと吹き出した。
「冗談ですよ。これからもシノさんを無理矢理抱くなんてことはしません。それに僕はもう慣れてきたから、翌日そんなに痛いなぁって思うこともなくなりました」
「え、そうなの?」
「ええ。そんなこと嘘言っても、なんの得にもならないでしょうが」
「ま、まぁそうだけど。でも慣れると大丈夫なものなの?」
「そりゃ、乱暴にされればダメでしょうけどね。でもシノさんはいつも僕が開くまできちんと待ってくれているし。夕べだって一応僕は、シノさんがシノさんなりに開くまで待ってからしたんで、割と早く回復するだろうと思いますよ」
「ひ、開く?」
 何のことか意味がわからなくて、再度聞き直すと、千春はしれっとこんなことを言った。
「つまり、ソコに挿れてほしくてたまらないって状態のことですよ」
 一気に顔が熱くなる。
 ああ、訊かなきゃよかった・・・。

 

here comes the sun act.51 end.

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編集後記

二週に渡って(正確にはお休みも入れると三週)表向き更新されている気配がない、というのはダメだろうと思い、今週は普通に更新です。
とはいっても、お話自体は全く進まないヤマナシオチなしパターンですが・・・。

千春目線の大人シーンは、いずれ書くと思います。多分。
シノさんの回が何だか国沢的には完全不燃焼な感じだったので・・・。
おそらく、次回あたりに書くことになるかと思うんですが、次週はミッチロリン巡礼の旅に出かけますので、お休みします(大汗)。
すみません・・・。人生においてはずせない恒例行事でして・・・。

なんだかヒヤカムの終わりの落としどころをどうしたらいいかわからなくなってきている国沢です(爆)。

[国沢]

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