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ボーナストラック


<はじめてのチュウ・・・はしたけど>
 
 「ところで、万喜子に一体何貰ったんだ?」
 これが、ここのところの真司の口癖だった。
 数日前、純喫茶・モニカで芳が万喜子に貰ったものが何であるか、相当気になるらしい。
 今までは、休み時間の廊下とか部室とか帰りの昇降口で・・・なんて場所でその質問をされ、当然きちんと答えられる訳もなく。
 幾度となくはぐらかしてきたが、流石の殿も、少々苛ついていたらしい。
「おい、いい加減に教えろ」
 とうとうこんな台詞までついて来始めた。
 でも、これ以上真司をこの謎々で苦しめる必要はない。
 だって今ここは真司の部屋で、なおかつ二人っきりだからだ。
 今日は日曜日。
 午前中、芳は道場で真司の稽古をずっと眺めて過ごし、その後モニカで昼食を一緒に食べ、真司の魚屋まで帰ってきたのだ。
 真司のお父さんとお母さんは、親戚の家まで出かけているとかで留守。
 万喜子にもらった小さな紙袋と共に密やかな野望を抱く小泉芳にとって、これ以上のシュチュエーションがあろうか!!
 おまけに、目の前で防具の後かたづけをしている真司はまだ剣道着姿のままで、所謂芳の『萌えツボ』ど真ん中ときているのだ。(ま、芳にとってしてみれば、真司がどんな格好であろうと、ど真ん中であることに間違いないが)
「何を貰ったか、知りたい?」
 床に胡座をかいて座った芳が、立ったままの真司に向かって上目使いでそう訊くと、真司は少し口を尖らせ「おう、当たり前だろ」と返してくる。
「怒らない?」
「何で怒る必要がある」
「なんか、答え知ったら暴れ出しそうなんだもん」
「何だそれ。だってそれ、万喜子が買ってきたもんだろ」
「・・・そうだけど。ねぇ、姫に対しても怒らないでよね」
「ああ、分かった。分かったよ! いいから見せろ」
 芳は、おずおずと鞄から例のブツを取り出した。
 ピンク色のファンシーな液体が入った綺麗な瓶。
 それを受け取った真司は、それをマジマジと見てもそれが何なのか分かっていないようだ。
「なんじゃこれ」
 キャップを開けて、匂いなんか嗅いじゃってる。
「甘い匂いがする。水飴か?」
 指先についたそれを舐めようとする真司を、芳は慌てて止めた。
「わわわ! 何してんの?!」
「舐めちゃダメなのか。毒か?」
「や~・・・多分舐めても大丈夫だとは思うけど~・・・。舐めるためのものじゃぁないと思うんだよね。どちらかというと、時として必然的に舐めちゃうことになるっていうのが正しくて・・・」
「── なんだかめんどくせぇな」
 真司はしかめっ面で瓶を眺めている。
 そしてようやく、商品名に気が付いたようだ。
「『激ラブ・ヌルリン・セックスローション ストロベリーの香り』?」
 真司の無骨な声が、一気に商品名を読み上げる。それを聞いて、芳の方が顔を真っ赤にした。
 その顔を見て、真司がキョトンとする。そして次の瞬間、真司も一気に顔を赤くした。
「・・・これ、その、あの、セッ・・・」
 真司は、思わず『セックス』と言いかけて、慌てて口を濁した。
 真司も芳も、『セックス』という言葉を平気で口に出せるほどにはすれていない。
 さっき真司が思わず口にできたのも、自覚がないままに口にしたからだ。
 真司は改めて、「アレする時に使うものか?」と訊き直してくる。
 芳が口を噤んだままウンウンと頷くと、真司は真っ赤になった顔を派手に顰めながら、「アイツら・・・・」と唸り声を上げた。
「お、怒らないって約束したじゃん」
 芳が間髪入れずそう言うと、真司はバツが悪いように唇を尖らせて、芳の前に座り込んだ。
 ローションの瓶を芳に返してくる。
「でもそれ、どうやって使うんだよ。使い方知ってっか? お前」
 芳はポリポリと頭を掻く。
「まぁ・・・一応・・・いろいろな書物で勉強いたしたので・・・」
 中には、ロープとかろうそくとか使ってるのもあったけど。
 芳は、脳裏に浮かんだ『邪悪な映像』を慌てて排除する。
 何だか、奇妙なというか微妙なというか、居心地の悪い沈黙が二人の間に流れた。
「── ・・・やっぱ、帰るわ、俺」
 芳は立ち上がろうとする。
「な、なんでだよ」
 その腕を真司が掴んだ。
 芳は真司を振り返る。
「えぇ・・・だって・・・。や、なんでしょ」
「やっていうか・・・」
 真司は芳から視線を外してしまう。いつもは、人と話してる時は真っ直ぐに相手を見つめてくるのに、こんな真司はとても珍しい。
 芳は、ふぅと息を吐いて自分を落ち着けると、勇気を出して言った。
「だって俺、真司と二人きりでいるのに、我慢なんてできないよ」
 真司が芳に顔を向ける。
「強引にはしたくないから、その気がないんなら帰った方が安全でしょ。お互いに」
 芳がオオカミの如く真司に襲いかかれば間違いなく真司の『貞操の危機』だし、そのことによって真司が激しく抵抗すれば、今度は芳の『生命の危機』が訪れることになる。
 真司は、頬を赤らめたまま、凄く難しそうな顔つきをしている。
 芳は、真司の言葉を根気強く待った。
 やがて、真司から出てきたのは、「── お前、本気で俺としたいのか?」という言葉だった。
 芳は、改めて真司の前に座る。真司の両手を握り、強く言った。
「したいにきまってるじゃん。大好きなんだし。お前のこと」
 真司の顔が再びカーッと赤くなる。今度は耳まで赤くなっている。
 芳からしてみれば、かなり『可愛い』。可愛すぎる。
「── 非常につまらんかもしれんぞ、俺とシテも」
「初めてだから?」
 ギロリと睨まれた。というよりは、羞恥心が極度に高まり過ぎて、目つきが凶悪になっているといったところか。
「初めてなんだよね?」
「・・・悪いか」
「悪くなんかあるもんか!」
 思わず真司の手を握る力が強くなる。
「真司の初めての相手になれて、感激してるのに!」
 それって、男としては至福の喜び。
 けれど真司は少し不服のようだ。
「お前は初めてじゃないんだろうが」
 ── う。
 芳は痛いところを突かれて、強ばった笑みを浮かべてしまう。
「・・・まぁ、でも、俺もそんなに経験がある方じゃないと思うよ。数えるほどだよ。全部女の子とだし。男同士なのは、俺も初めて。だから一緒のようなものだよ」
 そんなもんかぁ~と真司はブーたれてる。
 そんな顔も、芳は可愛いと思ってしまう。
 芳は、真司の右手を取って、自分の胸元に押しつけた。
「だってほら、その証拠に、こんなに心臓ドキドキしてるんだぜ」
 白いシャツごし、ドクリドクリと激しく脈打つ心臓の鼓動が真司の手のひらに伝わっていく。
「・・・すげぇな・・・」
「すげぇよ。・・・真司もなってる?」
 真司は、空いた方の手で彼の胸元に手を置いた。
「・・・なってんな」
「── これ・・・使ってみる?」
 芳は、床に転がっているピンク色の小瓶をチラリと見る。真司も同じようにチラリとそれを見た。そうして顔を見合わせると、二人同時にゴクリと喉を鳴らしたのだった。

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公務員ゴブガリアン老舗ボーナストラック end.

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編集後記

え~、一週お待たせのボーナストラックでございます。
みなさま、大変長らくお待たせおばしました!
魚屋、ついについにお殿様の大団円でございます!!
はじめてのチュウ~、きみとチュウ~、でございます!(や、チュウはもうやってるんですけどね、すでに)
今回の小説では、初めて「攻・受」のアンケートを取りまして、皆様のご意見をお伺いしましたが、一応結果的には「お殿様・受」に軍配が上がったんでしたっけね。そうでしたよね。
でも本当のところ、WEB拍手のコメントの反応では、「折中」案が多かったです(笑)。
つまりは、リバってことですかね? わはは。
ま、どんなことになっているのかは、読んでみてのお楽しみってことで・・・(といっても、それほど「お楽しみ」なことにはなっておりませんですよ、ええ。なんてったって、奥手な奴らですからね・・・(汗)。そげん期待しないでおくれやす・・・)。

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[国沢]

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