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act.09


<ザ・下克上・雄大の乱>
 
 カフェテーブルの上にある芳の手を取るかのように見えた霧島の手は、その直前でピタリと止まった。
 芳は、怪訝そうに眉をひそめて霧島の手を見下ろした。
 その手の薬指にはシルバーのシンプルな指輪が光っている。
「実は、キッズ英会話スクールに通っている娘を迎えに行く途中なんだ」
 芳はあっ!と思って途端に顔を赤くした。
 今まで霧島の手が視界に入ってなかった訳ではないのに、指輪にまったく気が付かなかった。全く、思いこみの激しさのせいで見えるものも見えなくなるなんて、本当にどうかしている。
 まさに穴があったらずっぽり填りたい・・・そんな心境である。
「すすすすすみません・・・・」
 ダラダラと汗を垂らしながら芳が謝ると、「流石の僕も、少し驚いたよ。まさか話がそういう方向に行くとはね」と霧島は朗らかに答えてくれた。
 しかしそこで芳はハタと気が付いた。
 芳は今までてっきり霧島が真司のことを好きだからして、そういう傾向の話をしても平気だと踏んでいたが、霧島が既婚者だと話は違ってくる。
 そのことに気が付いた芳の顔色は、赤から青に一瞬で変化したのだった。
「おいおい、君、また貧血か?」
 霧島が慌てた口調で身を乗り出す。芳は、その霧島を手で制した。
「── ち、違います。そんなんじゃないです。大丈夫です」
「本当に?」
「えっ、ええ。実際のところ、見た目より丈夫ですから。── ただ、その、何というか・・・」
 芳が言い淀んでいると、察しのいい霧島は芳が何を言いたいのか理解したらしい。
「ああ、君が同性に対して恋愛感情を持っていることを、既婚者の僕が知るのはまずいという訳だな。・・・・なるほど、君は色が白いから、顔色の変化が分かりやすいのか」
 ウソがつけない体質だなぁと霧島に笑われる。
 芳は、おずおずと霧島を見上げる。
「── その・・・霧島さんは平気なんですか? そういう話題」
「同性愛?」
 ズバリそう言われ、芳は霧島から視線を外した。
 真司一途な芳だが、自分の恋心が所謂『普通でない』ことは承知しているつもりだ。
「あの・・・俺が一方的に好きなんです。芹沢がそうだっていう訳じゃないんです。だから、道場とかで会っても、芹沢はそうじゃないんで、誤解しないであげてください・・・」
 芳は小さな声でそう早口に言った。そうしてグッと唇を噛みしめる。
 霧島は、そんな芳を少し陰りのある表情で見つめてきた。
「── 誰もそんなことで真司に辛く当たったりはしないさ。むろん、君にもね」
 芳は顔を上げて霧島を見つめた。
「そりゃ、僕が学生時代、無理矢理迫ってきた輩には少々手荒にお断りをしたりもしたけれどね」
 霧島はそう言って苦笑いする。
 確かに霧島ほどの美形なら、そういう趣味のある人間に言い寄られた経験など腐るほどありそうだ。だが、霧島は見た目と違ってのあの強さだから、無理矢理どうこうしようものなら、逆に酷い目にあったであろう。
 それを想像してまたも顔を青ざめる芳に、霧島はまたハハハと笑った。
「さっきも言ったように、君に何かするつもりはないから安心したまえ。ただ、何をするにしても相手の気持ちを考えずに突き進むのはよくないということを言っているんだよ。僕だってそうは言っても、同門の先輩剣士に憧れたものだ。あれは殆ど恋愛的要素があったと言ってもいい。そういう世界が全く分からないわけではないよ」
 そう言われて、芳は少しほっとする。けれど、霧島が言ったことが少し引っかかった。
「── 俺・・・突き進んでいるように見えますか?」
「ん?」
「さっき、そう言ってたから・・・」
「ああ・・・」
 霧島は、朗らかに芳を見つめてきた。
「突き進んでいると思うかい? 自分的に」
 逆にそう訊かれ、芳は思いを巡らせた。
 今までしてきたことを考えて・・・やがて顔を赤らめた。
 霧島が頷く。
「そうか。まぁ僕も君と会うのは二回目だから断言はできないけれど、恋は盲目とよく言うからな。けれど、自分の想いばかりに集中し過ぎたり、それを相手に押しつけたりするだけじゃ上手くはいかないものさ。恋愛にしても他の人間関係にしても、全ては相手があってこそだ。相手だってモノを考えて、動くということを知っていなくては。実際君は、真司が何を考え思っているか、分かりかねているんだろう?」
 芳は首を横に振る。
 真司が芳のことをどう思っているかなんて、全く持って大いなる謎だ。
「あの・・・どうしたらいいでしょうか、俺・・・」
 霧島は、う~ん、そうだなぁと腕組みをした。
「僕も偉そうなことは言えないがね。とにかく、自分が相手のことをどう思っているのか、相手とどうなりたいのかをきちんと整理して、その気持ちを相手に素直にぶつけてみればどうだろう。勇気がいることだけど、そうしないと何も始まらない訳だし」
 そう優しく言われ、芳は少しだけ微笑んだ。
 何だかちょっと目の前が明るくなったように感じたからだ。
「── ありがとうございます。・・・頑張ってみます」
 霧島は、うんと頷くと腕時計を見、「すまない、もうスクールの終わる時間なんだ」と伝票を手に席を立つ。
「あ・・・!」
 芳が鞄から財布を取り出すと、やんわりとその手を押さえられた。
「誘ったのは僕の方だから。じゃ、また機会があったら。その後どうなったかも気になるしね」
 霧島はそう言って、慌ただしく出ていった。
 彼は根気よく芳に付き合ってくれていたが、本当言うと娘との約束の時間はきていたのかもしれない。
 窓の外を走っていく霧島の後ろ姿を見送りながら、芳はホッと一息ついたのだった。


 真司の様子がおかしい。
 その一大事は、筒井雄大の耳にも入っていた。
 何でも、ものすご~く意気消沈していて、まるでクラゲのようだと。
 クラゲっていったら、もうグニャグニャじゃん!!
 雄大にしてみれば、ドキドキ感が募る・・・いや、心配が募る一大事である。
 校内で真司を捕まえることができなかった雄大は、真司がいるだろうと目される剣道場に向かった。
 真司は、テスト期間中だろうが何だろうが、剣道の稽古だけは怠ったことがない。
 五段変速のテントウムシマーク自転車をタチ漕ぎ状態ですっ飛ばした甲斐があって、真司は剣道場にいた。本当に腑抜けの状態で。
 壁に向かって竹刀を振る姿もどこか覇気がなく、ぼんやりしている。
 きっと身体は、昔から染み込んだ条件反射的行動でいつもの練習をこなしているのだろうが、既に防具を付けていない段階で、心ここにあらずといったところだろう。
 ── うわ~、健ちゃんの言ってたこと、本当だ~。
 道場の入口で何だか訳の分からない感動を味わいつつ雄大が真司の姿を見つめていると、ふいに首根っこを掴まれた。
「こりゃ、何をやっておる」
「わ!」
 雄大が振り返ると、道場主の先生がいた。
「誰かと思えば、雄大じゃないか。すっかり道場に来んなったと思ったら、今頃のこのこ姿を現しおって」
 小学生から中学生の頃、雄大はこれでも剣道をしていた。
 クラスでいじめられていたところを真司に救われ、身体と心の鍛錬をした方がよいとのアドバイスと共に通い始めたのだが、結局は二年足らずで辞めてしまったのだ。
 こっそり真司の様子を偵察する筈が、まんまと道場主に見つかるとは、やはり雄大、どこかマヌケである。
「いや~、先生お久しぶりです~」
 とテンション高めに言ってみても、今年還暦を迎える道場主はドロップアウターには厳しいときている。
 あれよあれよという間に道場に引きずり込まれた。
「全く。今の若いモノときたら、みょうチキリンな髪をしおって」
 ウ●チドレッドを引き合いに出され、思わず顔をくしゃくしゃに歪める雄大である。
「そりゃ、ボクのせいじゃないですよ~」
「五月蠅い。今日であったが百年目。稽古をしていけ」
 それもこれも軟弱な心根の雄大の為を思って・・・熱い志である。普段の雄大には逆効果である。
 だが、その日の雄大にとっては少し違っていた。
 彼の目の前には、道場主の息子にその腑抜け具合を指摘され、ぽかりと頭を叩かれているお殿様の余りに情けない姿があったのだ。
 ── ひょっとして、今日ならあの殿に勝てるかも・・・。
 今まで誰かに対して勝ち負けを意識したことがない雄大だったが、この日の雄大は何かが違っていた。
 たぎる男の本能。
 雄大の脳裡には、先週見た大河ドラマの戦国時代の大いなる合戦シーンが浮かんでいた。
『下克上! 下克上じゃぁ~!!』
 筒井雄大。これでも男。
 男なら誰しも、超えられない壁に挑んでみたいこともある。
 そしてその壁は、今日完璧に『手追い』な訳だ。
「はい! ボク、今日は真司君とお手合わせ願いたいです!!」
 道場主の手を逃れるため言ったこととはいえ、それでも雄大の心の中には偉大な野望が渦巻いていた。
 道場主も、ほうと納得したようだ。
「今日は、アヤツもどこか気が抜けておる。雄大が渇を入れてくれるのであれば、アヤツも正気に戻るかもしれんな」
 鶴の一声で、その場は合戦場となった。
 昔から道場に通っていて、雄大と真司の事情を知っている人間達は一様に呆れ顔だったが、立ち会いの場所に道場主の息子の手で連れてこられるフニャフニャの真司を見ていたら、本当に勝てそうな気がした。
 久しぶりに握る竹刀だったが、それでも二年足らずは通っていたし、年下相手ではあるが試合にも勝った経験がある。
 手追いの相手に汚いぞと言われようがいいのだ。
 全然、いいのだ!!
「始め!!」
「きょえ~~~~~~~~!!」
 雄大が大いなる野望と共に飛翔した結果。
 ── ボクッ。
 頭部から聞こえる生々しい打撲音と共に、雄大の野望は崩れ去った。
 手追いとはいえ、さすが虎は虎。
 こうして雄大のウ●チドレッドの頂点に、大きな富士山が出来上がったのである。

 

公務員ゴブガリアン老舗 act.09 end.

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編集後記

先週の更新内容が、あまりに腑抜けで、『てにおは』すらお粗末だったので、少々直しました・・・(汗)。でも、腑抜けなのは変わりないですが(大汗)。さて、今週はいかがだったでしょうか。・・・腑抜けさ加減はさほど変わっておりませんが(汗)。雄大の大チャレンジに免じて許して下さい(涙)。

で、私生活では相変わらずロープレにはまっている国沢なんですが、先週はどんなゲームにはまっているのか、タイトルすら書いておりませんでした(汗)。
いかに脳味噌がアホ状態だったか、伺い知れますね・・・。
現在はまっているRPGは、コーエーさんが出してる「ジルオール インフィニティ」です。
ロープレ界では割と地味な部類に入るらしいですが。でもおもしろいです。
何がおもしろいって、シナリオが自由に選べること。好きな時に好きなところにいける。やろうと思えば、ゲームの筋書きを無視して、ひたすら金儲けに走ることもできる(笑)。
他のRPGをしたことがないのでよく分かりませんが、シナリオのフリーさ加減は、他にはないそうです。
でも、国沢が注目したのは、そんなことではありません(←そこら辺がそこはかとなく創作モーホーサイトを運営している管理人の病気さ加減・・・)。

なんと主人公の髪の色を真っ赤にできる(力汗)。

他のボード系のゲームでも主人公の性別を選べたり、髪型や格好を選べるのはありましたが、だいたいそういうのはかなりデフォルメされたキャラクター画像なので、いまいち萌え感は少ない。
だが、このゲームの場合、きちんとした3D人型八等身(そりゃいいすぎか)であるからして、ホント人間っぽい。(グラフィックの美しさは他の名だたるコーエーソフトにゃ負けますが・・・)

主人公の性別を男にして、髪の毛を赤くし、なおかつショーンと名付ければ・・・・・(力汗)。

呆れるほど、『本サイトマスターだけ萌え』の世界です。
確かに、サイトマスターが、己の作ったキャラに萌えてる姿は醜い。
分かってる、分かっているんです!!!!!
でも、そもそもその萌え感がなければ、サイトを立ち上げるだなんてことすらしてない筈だ(大汗)。
この萌え感は止まりません。
だって、

ショーンが走ったり、戦ったり、人と話したり、大冒険するんだもん!!!!

これを萌えずに、なんとする。
おまけに、百人ぐらいでてくる様々なキャラクターに中には、それこそ

羽柴を彷彿とさせる短髪で逞しい兄貴キャラが出てくる・・・(滝汗)。

ああ、なんということでしょう・・・(加藤み●り風)。

二人が話しているシーンなんか、もう完全に脳内ラブシーンに変換。
バカもここまでくるといっそ清々しい(←そんな訳あるか)。

しかも、他にはどこかイアン・バカランを想像させるヤツもいて、ホントおもろいです。

ということで、ゴールデン・ウィーク中、ほぼジルオール漬け決定の模様です。

[国沢]

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