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act.08


<オヤビン、てぇへんだ~~~~~~の巻>

 「たたたた、大変っ、大変だ!!」
 日頃あまり慌てた姿を見せたことのない健史が、廊下を空滑りしながら階下の進学チームクラスへとひた走っていた。
 既に学校は放課の時間。
 明日から始まる実力テストのせいで、学校は午前中までで終わり、テスト期間中はクラブ活動も認められていない。
 健史は、自分の『親分(オヤビン)様』へのご報告のため、彼女が帰ってしまう前にキャッチするために必死で走った。
 だが彼のオヤビン様は、まるで健史の動揺振りを予想していたがごとく、オヤビン様もまた向こうから廊下をひた走ってきていたところで、階段の踊り場でオヤビンと子分(コビン)は見事鉢合わせしたのであった。
「うわわ!!」
「ギャーーーー!!!」
 乙女にあるまじき悲鳴を上げ、階段を転がり落ちそうになっていた万喜子姫の両腕を、健史がすんでの所でひっ掴んだ。
 止まった格好はまるで階段でワルツを踊っているかのようだ。見事である。その二人の横を、用務員のオジサンが「腰悪くするな~」と呟きながらゆっくり降りていく。
 やがて健史はゆっくりと万喜子を引き上げると、階段の踊り場で互いに大きく深呼吸をし、冷や汗を拭った。
 そして二人で見つめ合った瞬間に、互いの気持ちが手に取るように分かったらしい。
 健史が「見た?」と訊くと、万喜子も「見た」と頷いた。
 朝の全校集会での真司と芳の様子を指してのことだ。
「で、真司君はどうだったの?」
「どうもこうもないよ。まるで別人みたい。すっかり覇気がなくなっちゃってさ。もうずっとぼんやりしてる。おまけに自分が格好悪いかどうか気にしてたんだぜ?! 今までの歴史の中でありえねぇよ」
「へぇ・・・」
「姫から電話もらった時は、小泉の方が意気消沈してるって聞いてたからさ。何だよ、話が違うじゃんって、面食らっちゃったよ」
 肩を竦める健史に、万喜子は「確かに」と相づちを打ったのだ。
 今朝の芳の様子は、『意気消沈』とは程遠い雰囲気だった。どちらかといえば、真司の方が意気消沈していた。
 これは万喜子にとっても予想外である。
 あの日以来、夏休みの間万喜子は芳に一日も会っていなかった。
 家で引きこもっていた芳は当然ジムに姿を見せはしなかったし、芳の妹の話によると芳はいわゆる『落ち武者』だった訳だから。
 しかし、夏休み後半戦で芳には『何か』があったらしい。
 それが何かは妹に訊いても分からなかったが、芳は一山超えたに違いないのだ。
 一度は、少し強烈すぎる作戦を考えてしまったかしらん・・・と反省していた万喜子だったが、新学期になってホッと胸を撫で下ろした訳だ。その矢先の殿のご乱心である。
「アタシもまさか、真司君にも効果が出るなんて思ってもみなかったのよ」
 今度は万喜子が肩を竦める番である。
「やっぱ、それが原因なの? 霧島さんに小泉を会わせたことが?」
「だって、その他でなんか考えられる? あの真司君を腑抜けにさせるのに、どんなことが? 格好のこと気にしてるってことは、あの殿の中に恋心が芽生えたってことでしょ」
 万喜子は、自分でそう言ってる間に脈々と自信を取り戻してきたらしい。
「そうよ! あの作戦は見事な効果を発揮したってことよ!! ああ、私って天才!!」
 仁王立ちになって、アッハッハと高笑いする万喜子に、健史はぼそりと言った。
「まさか殿、霧島さんに参っちゃったってこと・・・ないよね」
 ハッと息を吐いたっきり、万喜子はその場で硬直したのだった。 その頃、芳は家までの道を歩いていた。
 バンドメンバーの中で徒歩通学しているのは芳だけである。
 周囲には何人かのクラスメイトが一緒だったが、芳は皆の会話に入らず、考え事をしていた。
 今朝、体育館の前で顔を会わせた時の真司の反応について。
 芳は真司の姿を見つけ思わず顔を綻ばせたが、真司はといえば、ポカンとした後複雑な表情を浮かべていた。
 ── あれって・・・どういうことなんだろう。
 芳は、その表情の意味を図りかねていた。
 何だかちょっと悲しそうにも見えたし、落胆しているようにも見えた。
 でも、明らかにあれは『何かに悩んでいる』表情に違いない。
 ── ひょっとして、それって、うまくいってないってことなのかな。ええとつまり・・・・霧島さんへの恋が?
 惜しい!!
 思わずつっこみを入れてしまうほどの天晴れな誤解ぶり。
 途中まではあっているが、肝心の『名前』に入れる欄が間違っている。いやはや残念だ。
 折角父に励まされ再び頑張ろうと奮起した芳だったが、報われない恋ほど辛いものはない。
 ── さすがに、へこむよなぁ・・・。
 芳が溜息をついた時、芳のすぐ側でクラクションが二回鳴った。
 その軽いタッチの音色に、周囲の目線が集まる。
 芳も例外なくクラクションを鳴らした車の方を見て、思わず顎が外れるほど驚いた。
 その車からこちらに軽く手を振っていたのは、他ならぬ宿敵・霧島だったのだ。
 

 五分後、芳は近くの洒落たカフェにいた。宿敵と共に。
「下校途中に寄り道させて、悪かったかな」
 そう言う霧島は、芳を見かけると車をコインパーキングに止めて(さすが警察官!)、お茶の誘いをかけてきたのだ。
 気分は重い芳だったが、宿敵から受けた挑戦状を無碍にするような肝っ玉の小さい男とは思われたくなかった(ここら辺に、芹沢真司の影響が窺える・・・)。
「いえ。大丈夫です」
 芳が控えめにそう言うと、「こんな早い時間に帰宅しているところを見ると、テスト期間中かなにかだろう」と言われ驚いた。霧島は芳のそんな表情を見つけると、「一応捜査課に勤務してるからね。捜査するのが仕事だから」と返してきた。
「刑事なんですか?」
 芳が思わず感心してそう返すと、「まぁ、現場にはそんなに出ることはないんだがね。一応捜査方針を決める立場だから」
「へぇ・・・」
 と言いながら、芳は心の中で思った。何だかひょっとして、偉い人なんだろうか。若いのに。と。
 しかし目の前にいる霧島は、警官の制服は来ていなかったし、薄手のシャツにサマーセーターという格好でとても勤務中には見えない。
「ひょっとして今日は・・・」
「休みなんだ。警官の休暇は不定期でね。丁度そこのショッピングセンターに行く途中だったんだ」
 そう言って微笑む霧島は、この前の妖艶さは薄まり、こざっぱりした雰囲気だ。こんなお日様の高い日の下で会っているせいかもしれない。だが、美形ぶりは相変わらずだ。彼の口から『ショッピングセンター』だなんて庶民的な単語が飛び出すこと自体が至極不思議に思える。何せ霧島という男は、生活感をあまり感じさせない。
 芳は思わず、フハハと笑ってしまった。
「何だ、思ったより元気そうじゃないか」
 霧島にそう言われ、芳は慌てて口を手で押さえた。顔を赤らめて「すみません」と謝る。逆にハハハと笑われた。
「実は心配していたんだ。武道館で具合悪そうだったし、様子もおかしかったからね。その後、浅田さんに電話をもらっててね。随分落ち込んでいるって聞いたものだから」
「姫に?」
 思わぬ名前が飛び出して、芳は驚きを隠せなかった。
「姫? ああ、浅田さんのことか。へぇ、彼女、姫って呼ばれているんだな。なるほど・・・」
 霧島は万喜子の顔を思い浮かべて納得したらしい。クスクスと笑っている。
「霧島さん、知り合いなんですか? 姫と」
「え? ああ。真司を通じてね。他にも知っているよ。一緒にバンドを組んでいるって。君は特に真司と仲がいいってことだけど」
 芳は、霧島の口から真司の名前が出る度に、ドキリとしてしまう。何だか、理由は分からないけど。
 芳が唇を噛みしめていると、下から顔を覗き込まれ、「で? 仲直りはできたのかな?」と訊かれた。
「え! ええと、それは・・・」
 切れ長の真っ黒い瞳が自分をじっと見つめている。
 なるほど、隠し事ができなさそうな瞳だ。この目で悪いことをした人の心を見透かしているのだろう。
 何だか、芳自身も見透かされているような気分だ。
「仲直りなんかできる訳がないでしょう」
 居心地が悪くなって、思わず芳は険のある口調でそう返した。霧島の片眉がクイッと上がる。
「── それは・・・僕のことを責めているって口調だな」
 ドキリとする。
「す、すみません。そんなつもりは・・」
 慌てて芳はそう言ったが、内心は本気でそう思っている訳だから、きっと霧島には分かってるのだろう。
 芳はそのことに気づき、一瞬宙に目線を泳がせると、更にシュンとして「すみません・・・」と呟いた。
 霧島は、芳の感情の動きを見逃すことはなかった。
「別にいいじゃないか。怒りたい時は素直に怒れば。そこで自己嫌悪に落ちる理由はないよ」
 霧島は、何もかもお見通しらしい。
 何だか、芳なんて全然叶わない感じだ。
「正直に言ってみたらどうかな? まだ少し時間はあるし、僕でよければ聞くが」
 腕時計をチラリと見ながら、霧島がそう言う。
 芳はしばらく口ごもっていたが、霧島が穏やかに自分を見つめてくれているのが分かり、意を決したように口を開いた。
「── 俺は、霧島さんのことが羨ましいです。凄く」
 今までと違って、はっきりとした声で言った。
 言うと決めたからには、きちんと言う。芳はそういう性分だ。
「羨ましい?」
 ほうと息を付いて、霧島は背もたれに身を凭れさせる。
「だってあなたは、芹沢に愛されてるから」
「あ、愛?」
 霧島が腕組みする。
 流石の霧島でも、そういう風に話が展開していくとは思ってみなかったのだろう。
「きっと芹沢は霧島さんのことが好きなんだ。だって、前に髪の毛を伸ばしていたのも霧島さんのためだったし、霧島さんのことを話す芹沢は全然違うんだ。この間の武道館の時だって・・・」
 怒濤の如く話している芳に、霧島はすっかり面食らった様子で、「話の腰を折って悪いが・・・」と口を差した。
「ひょっとして君は・・・、真司のことが好き、なのか?」
「え? 霧島さんも好きなんじゃないんですか?」
 芳はきょとんとしている。
 何当たり前のことを訊いてきてるんだとでも言いたそうな表情だ。
 霧島も思わずポカンとした。
 こんなに呆気に取られたことは、彼の人生の中できっと初めてだったろう。
 だが、やがて霧島はやっと話の流れが掴めたようで、ハッハッハと高笑いし始めた。
「え? なっ、なんですか?」
 芳は眉間に皺を寄せる。
 霧島は、今までとは打って変わって、あの『妖艶』な笑みをニヤリと浮かべて、芳の前に手を差し出した・・・。

 

公務員ゴブガリアン老舗 act.08 end.

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編集後記

少々お休みしてのゴブガリアン。またまた少ししか書けなくてすみませでした・・・。
それと国沢、もうひとつあやまらなければなりません。
そう。

ついに国沢、ロールプレイング・ゲームというものを購入してしまいました!!!(青)

・・・。

現実逃避。完全なる現実逃避です・・・。
こんな意志の弱い国沢を許してください。

今まで、このサイトにお越し頂いている方々はご存じでしょうが、国沢はゲーマーでもあります。ゲーム、結構好きだったりします。
とはいっても、あまりメジャーどころのゲームはせず、どちらかというとボード系の・・・主にモノポリーちっくなゲームをよくしていました。PS2のスペックを余らせるほど余らせた地味でシンプルなゲームの数々です。
アクション系のゲームをしてもすぐに飽きてしまうし、忙しいゲームは疲れちゃうんですよね~(年)。
そんなゆっくりゲーマーな国沢、ひとつだけ禁断のゲーム分野がありました。
そう、それが「ロールプレイング・ゲーム」。
まぁ、単なる食わず嫌いだったんだろうと思うんですが、なんだかあの二等身なキャラクターがちょこまか動くのがどこか嫌だったんです。
ところがあ~た、世の中文明の利器はどんどん進化するんですねぇ~。
最近のロープレはキャラが二等身じゃないんですな!!(←何を当たり前のことを・・・)
ということで、今、脳味噌がまともに動いてないです(汗)。
ロープレは確かに人間の現実的思考を破壊します(笑)。
いやぁ~・・・おもろいっす・・・・。このおもしろさ、危険・・・。
さすがにオンラインまでは手を出す気はまったくないですが(これは本気で怖いんで)、はまると他のことしたくなくなります。
ロープレ、恐るべし。
こりゃ、ロープレ填りすぎて引きこもりになるヤツの気持ち、わからんでもない・・・(大汗)。韓国でゲームやり続けて死んだ人って、よもやロープレしてたんじゃないかな。
いやはや、世も末です・・・。
ま、なんだかんだ言って、国沢が現実逃避しているって事実には変わりないんですがね(大汗)。

[国沢]

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