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act.06


<ドリフ降臨> 

 新学期。
 小山健史が教室に入ると、瞬く間にクラスメイトの女の子連中に周囲を取り囲まれてしまった。
 普通の男子諸君なら、「俺にもついに念願のモテ期到来か」とにやけるところだが、ザ・芹沢バンドのベーシストである健史は、ある意味バンドキャプテン・田中彰より冷静沈着な男であった。女子がどんな情報欲しさに自分を取り囲んでくるのか、粗方想像はできていたのだ。数日前、浅田万喜子姫と電話で話していたお陰で。
「ねぇ、ねぇ、小山君! 小泉君とは夏休み一緒だったの?」
 ── ほら、きた。予想通り。
「え~、そんな一緒にいた訳じゃないよ~」
 口に銜えたパイポを揺らせつつのらりくらりと健史はそう答えるが、目の色が完全に変わっている女子連中が大人しく引き下がる訳がない。席に着こうとする健史を追いかけてくる。
「え~、でも小山君、一緒にバンドやってるでしょ? 仲いいじゃない」
「仲はいいけど、四六時中一緒の訳ないでしょうが。バンドコンテスト以来、そんなに会ってないです。で、何を聞き出そうっての?」
「や、だから、小泉王子の変身ぶりについてコメントが欲しいの」
 流石の健史も椅子にどっかりと腰を下ろして、少々呆れ顔でクラスメイトを見上げた。
「コメントって・・・芸能レポーターじゃないんだから・・・」
「そんなことはどうでもいいの! こっちはネタに飢えてるんだから!」
「そうよ! 王子のあんな変身ぶりを見せつけられて、黙っていられると思う?」
 きゃんきゃんと噛みつかれ、健史は耳の穴に指を突っ込んだ。
 正直、バンドコンテスト以来まともに顔を併せていないからして、健史も芳の変身ぶりを実際に目にした訳ではない。ただほんのちょっと万喜子姫に電話で様子を教えてもらっただけだ。
 小泉芳は恋愛に敗北しかかっていて、『落ち武者』のようになっている、と。
 けれどクラスの違う女子までもこんなに浮き足立っているのだから、きっと芳っちはとんでもなく変化したのだろう。夏休みの間に。
「おいおい、そんなに芳っち、落ち武者になっちゃってんの?」
 逆に健史がそう聞き返すと、女子達は互いに顔を見合わせて怪訝そうな顔つきをして見せた。
「落ち武者って何?」
 『落ち武者』という言葉が流行始める時代はもう少し未来であるからして(時代推奨:昭和63年)、当然乙女達には分からない。
「え? あれ? 違うの?」
 これはどうやら、姫と電話で話した時より戦況が変化してきているらしい・・・。
 健史はムムムと心の中で唸った。
 実のところ。
 数日前、万喜子姫から健史に電話があったのは、『相談事』だった。
 万喜子から健史に相談を持ちかけられることは珍しいことだった。
 大体バンドの仲間の中で誰かがトラブルを抱えると、大抵皆バンドキャプテンの彰を頼っていくし、大抵そこのラインで問題は解決するのだ。いつも。
 それなのに自分のところまで回ってくるとは万喜子の悩み事は相当なものだぞ・・・と思っていた矢先、出された名前は何と『小泉芳』と『芹沢真司』であった。
 健史はずっと、芳が密か(?)に抱いている恋心を知らないでいた。── いや正確には、知らない『フリ』をしていた。
 芳が真司に熱を上げているのはあの顔つきや態度を見ていれば、健史ぐらい身近にいる人間ならすぐ分かることだった。
 けれどそのことに触らずにいたのは、それが健史のスタイルだからだ。
 助けを求められればそれは尽力をつくすが、そうでなければただ黙っておく。
 小山健史はそういうキャラクターの男だった。
 だからいつもバンドメンバーの中ではつかづ離れずの位置にいて飄々としているが、その実こまめに現場の雰囲気を察知して整える役目は健史がしてきた。これは彰でもできないことだ。
 それは彰も万喜子も認めている何とも頼れる男・小山健史だが、そんな中で唯一の彼の欠点というのが、『うっかり口を滑らす』癖。
 それもまた、彰や万喜子は熟知していることだし、なおかつ自分でもある程度自覚はしている。
 自分でも直そうとは思っているのだが、如何せんその場が危機的状況になると、何とかしようとして、重大失言を犯してしまうことがある。
 思えば、さっきの『落ち武者』発言もかる~く失言気味である。
 幸い、女子連中はそこに食いついてこなかったが、鋭く突っ込まれればやばかった。
 健史も内心冷や汗を拭ったが、自分にこんな欠点があることを知っているからこそ、万喜子が自分に相談話を持ってこないことも納得していたし、その方がいいと思っていたのだが。
 それでも、万喜子は健史に電話をしてきた。
 どうやら、話を聞くところによると、彰と万喜子の大作戦が大成功を納めすぎて、芳王子が再起不能の状態に陥ったという。
 ── そんな状態に追い込んだのなら、そりゃ『大成功』とは言わないんじゃないのかな?という素朴な疑問も浮かんだが、そんなこたぁ言ってられない。
 芳と一番に仲良くなってバンド活動以外でもよく芳と会っている万喜子だが、その大作戦とやらを皮切りにすっかり芳は家に引きこもってしまったらしいのだ。
 万喜子が家に電話をしても一向に電話口に出る気配もなく、代わりにすっかり仲良くなった芳の母親と妹に(ここら辺が万喜子の戦術の抜け目ないところだ)様子を訊くと、ろくすっぽ風呂にも入らず、おまけに無精ひげも生やしっぱなしだというのだ!!
 ── 余程強烈なカンフル剤をうっちゃったんだな~・・・と健史は思ったが、そこら辺は万喜子も反省していたので責めはしなかった。万喜子も芳のことを思ってしたことだ。
 そこで健史の出番である。
 万喜子がほとほと困って健史に電話してきた理由は、芳を何とか慰めるということではない。
 万喜子が言うに、芳と同じダメージをひょっとしたら芹沢真司も受けている可能性がある、ということだ。
 まさかそんな・・・と健史は思ったが、一応万喜子の言うことは頭の片隅に仕舞うことにした。
 健史と真司は家も同じ商店街内にあるもの同士だし、保育園時代からの幼なじみだ。それに高校になった今でも同じクラスで、ある意味健史は真司に一番近いところにいる。だから、真司の変化に一番最初に気付くのは健史に他ならない。だからこそ万喜子は、「真司君のこと、気を付けて見てあげて」と泣きついてきたというわけだ。
 とは言っても、夏休みの間健史の何かとバイトで忙しかったし、真司と顔を会わせるのは今日になってしまった。── で、肝心の殿はまだ教室に姿を見せてはいないのだが。
「ん~、芳っちが元気そうなら、直接訊けばいいんじゃない?」
 健史がガリガリと頭を掻きながらそう言うと、女子からブーイングの声が上がった。
「直接訊けないから、小山君に訊いてるんじゃない。王子様に直接声なんて掛けられないの! 下々の者は」
 健史は顔を顰めた。
 どうやら芳は、その王子っぷりに磨きをかけたらしい。
 ── ムムム。話が違うぞ?
「芳っち、何がそんなに変わったの? さっきの言ったように、俺も夏休みの最初の頃しか会ってないからさ。いまいち状況が分からないわけよ」
 健史がそう訊くと、女子どもは、一斉に目の中にハートマークを浮かべた。
 彼女達が口々に言う黄色い声を健史なりに分析すると、芳王子は、前より『精悍』になって『程良く逞しく』なって『男っぽく』なったけど、その顔は『以前にも増してスウィート』にならしゃったのだという。
 ── ま、ようは益々グッド・ルッキング・ガイになった訳ね。
 なんだよ、姫。全然落ち武者なんかじゃないじゃ~ん・・・とか思いつつ、健史は「一夏の経験でもしたんじゃないのぉ~」と適当に交わした。女子共は、一斉に「いや~~~~~~!!」と悲鳴を上げる。
 健史は、しっしと女子共を追い払うような仕草をした。
 芳が完全に落ち武者ってんだったら話は深刻だが、そうじゃないんなら芳の方は取り敢えず大丈夫だ。
 じゃ、問題なのは・・・・。
 ── ガラッ!
 教室の後ろの扉が開いた途端、今まであんなに騒がしかった教室が、水を打ったようにシーンと静まり返った。
 お殿様のおなぁ~りぃ~。
 坊主頭の芹沢真司、初見参である。
「── なんだよぉ。ジロジロ見んなよ」
 真司が自分のイガグリ頭を撫でつつ口を尖らせると、一気に和やかな雰囲気になった。
 教室中が笑いに包まれる。
「どうしたんだよ、芹沢、その頭!」
「すご~い! ビックリ!!」
「結構似合ってんじゃん!!」
 いろんな風にやじられながら、真司は自分の席に着く。
 さっきまで健史を取り囲んでいた女子達も、真司の余りの変化にただただ驚いて、口をあんぐりしたまますごすごと自分の席に帰っていった。彼女達にとっては、他のクラスの王子様の変身ぶりよりも自分のクラスのお殿様の変身ぶりの方がよっぽどインパクトがあったらしい。
「おはよ」
 真司の席のちょうど前に座る健史が振り返りながら声を掛けると、「はよ」と歯切れの悪い返事を返してきた。どうやら殿なりに照れくさいらしい。ま、健史は一度となくこの頭を見ているのでそれほどの思いはもうないが。
 だが、次に真司が言ったことで、健史は目を剥いた。
「チクショウ、格好わりぃかな、やっぱこの頭」
 大きな手でぐりぐりと自分の頭を撫でながら、落ち尽きなくそう言う真司は、およそ『普通でなかった』。
 ポロリ。
 健史の口からパイポが落ちる。
 ── ど、どえええええ?!!!
 あまりに衝撃が強すぎて、流石の健史もしばし口をパクパクとさせた。
 ── 真司が・・・あの真司が、自分のルックスを気、気にしてる!!!?
 すっかり動揺している健史の様子を、真司はてっきり別の意味で取ったらしい。
「やっぱりダメか、この頭。なんせ勢いでやっちまったからな・・・」
 いつになく弱腰なお殿様に、健史は何とか声をかけた。
 とりあえず、「そんなことないよ。似合ってるって皆言ってくれてんじゃないの」と返すことはできた。
 でも次には沸き上がってくる欲望を抑えられず、思わず純粋な感想が飛び出てしまう。
「どうしたの、真司?! 自分の格好のこと気にするなんて、らしくないじゃん!!」
 真司が、のっそりと健史を見る。
「えー・・・? あー、まぁ、俺だって、その・・・なんだ・・・・── ハァ・・・」
 真司は重たい溜息をついて、それっきり窓の外に顔を向けてしまった。
 ── 溜息だぁ?!!!
 見た目に健史は完全にフリーズ状態だったが、その中は完全にブリザード状態だった。
 もはや健史の頭の中で流れるのは、『8時だよ!全員集合』のコントセット撤収時の曲だ。しかも、エンドレス。
 健史がその後、まともに朝のホームルームを受けられなかったのは言うまでもない。

 

公務員ゴブガリアン老舗 act.06 end.

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編集後記

今週、内容が短くってごめんなさい(汗)。
そして、内容が薄くってごめんなさい・・・(汗汗)。
国沢は、果たして面白いお話を書けているのかどうか、凄く心配です(汗汗汗)。

というより、六話目にして早くもスランプ宣言をしてしまう自分が、情けないっす(汗汗汗汗)。
いよいよ次のマンヒッツが近づきつつあるって~のに、こんなんでホント申し訳ない・・・(涙)。
国沢、お殿様とともに、重い溜息をついております・・・・。

スランプです・・・(大●洋風)。


更新ネタでは、さっぱりふるわない国沢ですが、私生活では今回も話題豊富
掲示板でもちらりと書きましたが、今週国沢、足の小指を負傷したのに続き、

ぎっくり腰

をしてしまいました。
でも、した瞬間に、「グチッ」と音がしたので、正確には

グッチリ腰です。

ここまで来ると、己の鈍くささ加減にほとほと愛想が尽きて、もはや笑けてきます。
そして笑うと、響いてまた痛いのです(ホント自虐的・・・v)。

足の痛みなど、一瞬のうちに消えちまいました
(↑でもそれは、多分まやかし)

自分でもそうまで身体をはって、笑いを取るつもりはないんですが、家族には見事笑われました(汗)。「厄年抜けたのにね~」って(爆)!!

ああ、チクショウ。
今週は、編集後記に、この間のワールド・ベースボール・クラシックのこととか書きたかったのに!!! モーホースキーな同志の方々にぜひとも訊きたいことがあったのに!!!(そこまで書くと、何となく訊きたい内容、分かりますか?)

これはまた別の機会・・・できれば来週にも話題にしたいと思います。それ書き出すと、へたすりゃ本編より長くなっちまいそうなので・・・(滝汗)。

それと、先にも書きましたが、そろそろ次のマンヒッツが近づいて参りました。
え~、現在負傷中ですが、それが回復次第、マンヒッツ恒例の『ブツ』制作にも取りかかりたいと思います。そのブツがなんであるか、常連の方々ならお分かりかと思いますが、解らない場合は、ヒストリーのページなんか見てもらうと「ああ、そういうことね」という感じになるかと思います。参考にしてみてください。
あと、これは業務連絡みたいなものですが、最近ゲストブックの方で招かれざるお客様が随分お祭りをしてくださっているようなので、国沢の馬力が出次第撤収しようと考えています。今までご利用いただいた方に感謝しつつ、けれどいい加減書き込み拒否を設定するのにも疲れちゃいました(汗)。だってやつら、ホスト拒否してもどんどん違う住所で書き込んできやがるんだもんvv
うちで広報活動したって、なんの特にもならんと思うのですがね(汗)。
デカバンの方は、残すようにします。
こちらの方にもたまに『童●買いますv』とかってラブリーな書き込みがありますが(力汗)、うちに来られるお客様で●貞を売れるような人って、いませんよねぇ(笑)。
ホント笑っちゃいますが、デカバンの方は今のところは少ないので、現場維持します。
でも心配なんだよなぁ・・・。こっちに押し寄せてきたらどうしようかなぁ・・・。
なんて思いつつ。
いずれにしても、ブルーなネタですんません(汗)。

[国沢]

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