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act.04


<ライバル登場>

 万喜子の突然の呼出に、芳は純粋に驚いていた。
 夏休みの最後の週。
 万喜子が一緒に見に行こうと誘ったのは、何と街の武道館だった。
 何でも、今日は街中の剣士の多くが集まって合同練習を行う日で、真司も後で来る筈だという。
 そんなことは芳だって知っていたが、自分はともかく他のバンドメンバーが、真司の稽古を見たいというのは全くもって意外なことだった。それどころか、彼らはそれをわざと避けていた節が窺える。
 それなのに、今頃になって「一緒に見に行こう」だなんて、何なんだろう?
 芳は訝しんだが、所詮頭脳派・彰と策士・万喜子の手に掛かれば、芳なんぞ赤子同然である。
「来年になったら、進路のことで忙しくなっちゃうから、今の内に真司君の勇姿を目に焼き付けておきたいのよ」
 なんてセンチメンタルなことを万喜子に言われただけで、芳は納得してしまった。元来根の素直な王子様である。
 しかし、実際に武道館まで来てみると、万喜子が見つからない。
 仕方なく芳は真司を探すことにした。
 まずは、武道場を上から囲むような位置にある客席の一番前に陣取って、道場を見つめる。
 合同練習とあって参加者は多く、誰も彼もが同じように防具に袴姿なので、探すのに手間取った。いろんな年齢の剣士が会場を行き交っている。
 ふと、芳はとある練習試合に目を止めた。
 大柄なまるで岩のような身体つきの大男と、彼の身体の半分以下と言えそうな細身の剣士が相対峙していた。
 芳には、なぜそこに目が止まったのか判らなかった。
 紺色の袴が多い中、細身の剣士は白い袴を穿いていて、そのせいで目立っていたせいだろうか。
 大柄の男がキェーッと大柄に似合わない甲高い声を上げる。随分離れた位置にいる芳のところにまで、その凄まじい迫力が伝わっているのだから、正面で対峙している白袴の男はさぞ恐ろしいことだろう。現に、白袴はピクリとも動かなかった。
 大柄の男が、竹刀の先を神経質に弾き合わせて牽制する。だが、それでも白袴は微動だにしない。
 ── 大丈夫なんだろうか、あの人・・・
 そう思った瞬間。
 大柄の男が、上段に振りかぶって突っ込んできた。
 物凄い圧力。
 芳がアッと思った瞬間。
 ズダァン!!
 床に転がったのは、大柄の男だった。
 それは見事な、白袴の喉突き一本だった。
 素人の芳でも、ゾクゾクとくる。
 さっきまでの動が嘘のような静寂が訪れ、皆感心したように白袴の方を見ている。
 その視線は、誰もが「さすがだなぁ」という憧れのような視線を向けていた。
 きちんと一礼して下がる白袴の防具には、『霧島』の文字。
 ── 霧島・・・霧島?
 あっと芳は思った。
「霧島さんだ!!」
 思わず叫んでしまった。
 周囲の見学者が訝しげに芳を見つめてくる。思わず芳は口を両手で塞いだ。
 芳が再び道場を見下ろすと、霧島が道場の端っこで、丁度芳と対峙するように正座しているのが見えた。
 面を取った霧島の顔が、なぜだか芳の方を見ているような感じがした。
 その霧島の顔は。
 
 
 美形剣士とは、ああいう人をいうんだろうなぁ。
 遠目でも、霧島の端正な面差しは見て取れた。
 芳は観客席を降り、武道館の一階に下りて飲料水の自動販売機に向かった。
 何だか、やたら喉が渇く。
 芳は生きた心地がまるでしなかった。
 なぜなら、霧島は真司の『憧れの人』だからだ。
 真司がずっと勝てないでいる県警の猛者。
 そう、『猛者』だとずっと思っていた。芳は、勝手に。
 もう、ものすんっごい、何もかもボウボウの(ここら辺の芳の心理が判らない)猛者だと。
 まさか、あんなに細面のまるで沖田総司か佐々木小次郎かと言わんばかりの優男だとは思ってもいなかった。
 真司は、彼との戦いのために髪を伸ばしていたのだ。ただ、彼との戦いのために。
 ── それって・・・その気持ちって、凄く重くない、か?
 チューッと紙パックのジュースを啜り、吸い込んだ量と同じぐらいの量の汗を額から流しながら、芳はモンモンとした。
 恋愛感情が非常に鈍い真司が、一心不乱に拘っている唯一の相手。
 ようするにそれは、恋愛感情より重く・・・というよりそれそのものが恋愛感情じゃないのか? 真司が気付いていないだけで。
 ── あ・・・・ありえる。たたたた多分、ありえる~~~~~。
 ジュースのパックは既に可哀想なほど芳の吸引力で小さく縮こまっていたが、更に勢いよく吸われ、まさに悲鳴を上げている。この場面での被害者は、まさしくこの紙パックだ。そんな扱いをされるために彼はこの世に生まれてきた筈ではない。
 ── どうしよう! どうしよう! ああ、でも待てよ。肝心の霧島さんが真司に対して恋愛感情を抱いてなければ、それでいい訳だろ・・・? 要するに真司は気付いてない訳だから・・・
「ふははははは」
 芳は突如、紙パックを手で握りしめて大きな笑い声を上げる。プキュッという音は、紙パックさんの断末魔の叫びか。
 芳は、またも周囲から奇異の目で眺められていたが、今回ばかりは芳も全く気付いていない。
 誰だって、曲がりなりにも美少年(ってか、最近は美青年気味)がそのキャラを裏切ったバカ笑いをしている様には目が行くというものだろう。
 だが次の瞬間には、ギョギョッとしてしまう。
 さっきまで豪快に笑っていた美少年が、いきなりドーンと意気消沈して、壁にダンッと手を突く。
 プキュプキュッ!
 繰り返し言うが、『彼』はこんな扱いをされるために彼はこの世に生まれてきた筈はない。
 ストローに残っていた最後の雫が床に落ちる。
 芳は、一転、ネガティブな考えにふけった。
 ── もし、もしだよ? もし、あの霧島って人に『その気』があったとしたら・・・・
「おい、どうした? 大丈夫か?」
 突然真司に肩を叩かれ、芳は文字通り心臓が口から飛び出るほど驚いて振り返った。例えば芳が、『トムとジェリー』のトムだとしたら、丘の上まで走っていって叫ぶぐらいの驚きだった。
「お・・・おい。何もそんなに驚かなくても・・・」
 流石の真司も、芳のリアクションに驚かされたらしい。胸元を押さえて顔を引きつらせている。
「あ、ああ。芹沢か。うん、芹沢ね」
 芳は冷や汗を拭いながら笑顔を浮かべたが、その笑顔はガチガチに強ばっている。
 真司はそんな顔色の悪い芳を見て、眉間に皺を寄せた。
「本当に大丈夫か、お前・・・。万喜子にお前が練習見に来るからよろしくって言われてたけど、まさか万喜子、お前の具合が悪いことを心配して・・・」
 いや、芹沢さん。万喜子さんはもっと別のことを心配しているんですが。
 そんなことを書き手がツッコンでも、書かれている本人達が知るわけもなく。
「え? 姫から電話あったの?」
 万喜子の名前が出て、芳はやっと普段の彼の表情を取り戻した。
「何だ、姫、今日来る訳じゃないんだ。この前話した時は、一緒に見に行こうって言ってたのに・・・」
 芳は怪訝そうに首を傾げた。
 当然そこの矛盾点には万喜子と彰の策略があり、実際には今この様子を遥か遠くから高性能の双眼鏡で観察されていることにも全く気付いていなかった。
 所詮、芳にしても真司にしても、話の裏を読むような性格ではない。
 事実、五秒後には確実に「そんなことはいいや」と言う風に片づけられるのは必至だといえ・・・
「ま、そんなこたぁいいや、おい、小泉。具合が悪いんだったら、本当に正直に言えよ。そんなことでやせ我慢するな」
 真司が芳の顔を覗き込む。
 さっきの精神的ストレスからくる多量の発汗と不安からくる青白い顔色は、一見すると見事なほどの『貧血顔』だ。
「や、ホント、大丈夫だから・・・」
 芳がそう呟いた時、真司の背後から「誰か具合が悪いのか?」という声がした。
 真司が背後を振り返る。
「霧島さん」
 ドキリ!!
 またもや芳の心臓が飛び上がる。
「誰? 真司の友達か?」
 白袴の格好のままの霧島が、近づいてくる。
「君、随分顔色が悪いな。貧血を起こしてるんじゃないか? とにかく、そこのベンチに座って」
 流石警察官ともあって、歯切れのいい声。
 珍しくボウッと突っ立ってる真司の前に出て、さっと芳の身体を支え、あっという間に芳をベンチに座らせた。
「さ、横になって。襟元を少しくつろがせた方がいい」
 霧島は、ベンチの上に手ぬぐいを枕代わりにして置くと、その上に芳の頭を寝かせた。手際よく芳のシャツのボタンを外して、少しくつろがせる。
 その間、芳は霧島のドアップを拝めることとなったが、これが何とまぁ色気のある映像で。
 試合後のまだ汗が光る霧島の肌は、この土地の人間とは思えないほど透き通るように白く、艶めかしい。胴着の合わせ目につるっと汗が流れ落ちていく様まではっきりと見える。一方、対照的に真っ黒い艶のある髪は長めの前髪が汗に濡れていて、芳を世話している間にもはらりはらりと耳から乱れ落ち、秀麗な顔に影を造った。
 奥二重の涼しげな目元、すっとした細くて高い鼻梁、淡く色づいた薄い唇。
 まさしく、すらっとした美男子だ。
 遠目で見てもそれと分かってはいたものの、こうして目の前にすると益々迫力がある。
 ── この人・・・本当に警官?
 芳はといえば、敵であるはずの霧島の艶姿に完全にあてられ、見取れてしまった。
「大丈夫かい?」
 耳元で囁かれ、霧島の細いしんなりとした手が芳の胸元を探るように蠢いたのを感じて、芳はカッと頬に血を昇らせた。
「だだだ、大丈夫です!!!」
 芳はシャツの襟元を併せると、ガバリと身体を起こす。
 その瞬間、真司もこちらの方を見ながら頬を赤くしているのに気づき、芳の胸はズキリと痛みを感じた。
 余りの驚愕に、芳はその場で硬直してしまった。
「本当に大丈夫? 顔色は随分よくなったみたいだが・・・」
 そりゃそうです。今度は確実に全身の約三分の二の血液が頭に大集合している筈ですから。
 芳の隣に霧島が座り芳を覗き込むので、はたと芳も正気に戻った。
「や、ホント、大丈夫ですから・・・」
 霧島を見て、芳は言う。
「お陰様で随分良くなりました。ありがとうございます」
 芳が笑顔を浮かべると、霧島は納得したようだ。
「そうかい。なら、いいんだが。おい、真司。── 真司!」
 霧島が真司に声を掛ける。真司は、二回目の呼び掛けに反応した。
「え? あ、なんっすか」
「おいおい、お前までおかしいぞ。大丈夫か?」
 霧島にそう言われ、真司は「何言ってんっすか」と口を尖らせる。そんな子どものように甘えるような表情も、芳はこれまで見たことがないものだった。
 またもや芳は愕然とする。
 芳は、知らぬ間に胸元をギュッと握っていた。
 痛む。
 ズキズキと、そこが痛む。
「お前、練習はいいから、彼を送っていってやれ」
 霧島にそう言われ、「あ~」とどこかモジモジするような生返事を真司が返す。
 そんな歯切れの悪い真司を見るのも初めてで、芳は思わず立ち上がった。
「いや、俺、全然平気ですから。帰れますから、一人で。お騒がせしました」
 芳は慌ただしく頭を下げると、早足で猛然と武道館を後にしたのだった。


 「あ~~~・・・。ねぇ・・・、少々強烈過ぎたんじゃないの?」
 一階ロビーでのひと騒動を、二階の少し離れた廊下の手すりから万喜子姫が高性能の双眼鏡で覗き込みながら呟いた。
「霧島さんには、友達仲がこじれている二人を何とかしたいって言っただけなんだけど」
 彰も、万喜子の隣で双眼鏡を覗き込みながら、呟く。
「や、だって霧島さん、ただでさえあのフェロモンよ・・・」
「それを狙っての人選だろ?」
「そうだけどさ・・・」
 しばらくの沈黙の後、二人同時にこう呟いた。
「・・・・大人の男のフェロモンっておっそろし~~~~~~」
 性的にウブもいいところだったでくのぼうの二人に、いきなりそんな色香を意識させる『大人のフェロモン力』。恐るべし。

 

公務員ゴブガリアン老舗 act.04 end.

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編集後記

ど~も~。なんとか土曜日更新をキープしてる国沢です(汗)。
あ~、もうあやしいっす。
無事に来週更新できるかどうか・・・。
ななななんとか、がんがります!

えーと今週の話題は、首の痛みの話なんですけど・・・。
なんかテンション低い話ですみません(汗)。
実は、ここのところ首の痛みに悩まされてて、これはてっきり仕事が忙しくて、朝から晩までパソコンと向き合ってるせいだろう・・・とかって思ってたんです。
で、この間どうしても耐えられなくなって、友人の鍼灸師のとこにいったんですけど、そしたらその原因が判明。
なななんと、奥様!!
犯人は、外反母趾。
びびびビックリざます!!!

だって・・・・足じゃん!!!!

や~、人間の身体って不思議。
首の痛みの原因が足先にあっただなんて。

実は国沢、外反母趾なんっす(汗)。
足の裏のアーチは比較的あるようなんですが、足の親指が激しく内側に曲がってます。
え~とまぁ、足の親指がくの字の状態っていえばいいんでしょうか?
小さい頃からそんな足なんです、国沢。
でも、今まではさほど苦労は感じてなかったんですね、その足でも。
国沢は比較的ジーンズスタイルが多いので、靴もスニーカーとかをよく履いていたので、外反母趾でも痛みを感じずに生活できていた訳です。

ところが奥様!!
やっぱりほっとくとダメなんですってよ!! 外反母趾!!
年を取るごとに体力とか筋力とかが落ちてくると、今まで他の部分でカバーしていた身体への負荷が、ボロボロと表に出てくるようになるんですって。
で、国沢の場合、それが「首のこり」だと(汗)。

確かに、鍼灸師の友人に足へテーピングしてもらって、親指の位置を元の位置に矯正するとあら不思議。首の痛みが和らいでいる!!!
さっきまで、左右に曲げるのにも難儀してたのに、いくらぐりぐり回しても大丈夫!!!
国沢、身体の神秘を実体験したわけです。

ということで、現在、外反母趾矯正ベルト(←や、ホントはサポーターだけど・・・)を装着中。
日頃、肩や首のコリ、痛みに悩まされてる方、ご自分の足をチェックしてみてはいかがでしょう・・・。

[国沢]

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