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nothing to lose title

act.41

<side-SHINO>

 仕事を放りっぱなしにしていたので、会社の就業時間は過ぎていたが、俺は一旦社に戻る事にした。
 会社に戻ると、意外なほどに皆なんの反応もなく、俺は胸を撫で下ろした。
 そうだよな。
 会社にいる人間が、この時間、テレビを見てる訳がない。
 変に茶化されるのは嫌だと思っていたので、俺は心底ほっとした。
 日本酒課の部屋の手前まで来て、ハッとする。
  ── そういえば、田中さんに借りた本、休憩室に放りっぱなしにしてきてしまった。
 俺は慌てて、上の階にある休憩室に向かった。
 でもそこには既に本なはくて。
 ああ、困った。
 誰かが、持って行っちゃったのかな・・・。
 俺は、日本酒課に取って返した。
 よかった。まだ田中さん、帰ってなかった。
 俺は、真っ直ぐ田中さんの席に向かう。
「あの・・・、ごめん! 貸してくれた本なんだけど・・・」
 田中さんが、俺を見上げる。
 なに? そのしたり顔的な表情。
「心配無用です。本は、私がきちんと回収しましたから」
 田中さんが、引き出しを引く。
 そこには、ちゃんと本が仕舞われてあった。
 俺は、ほぅと息を吐く。
「よかった・・・! なくしたかと思って・・・」
「大丈夫です。篠田さんのフォローは、私がきちんとしますから」
 田中さんが、力強い目で俺を見る。
 俺は、その意図がよくわからなくて、「あ、ああ・・・。ありがとう」と呟いた。
「ところで、フォローって、なんのこと・・・?」
 俺はそう訊いたが、田中さんは俺から視線を外し、本を胸に抱きしめながら宙を見つめると、「私達、シノサワ同盟を結成したんで。・・・いや、サワシノ同盟になるのかしら・・・? どっちだろ?」と呟いている。
 俺には、彼女の言っている事が、益々わからない。
 なに同盟だって???
 そこを田中さんに再び訊こうとした時、「おい! シノ! 三津坂屋の件、どうなったんだ!」と課長に呼ばれた。
「はい! 今行きます!」
 俺は疑問をそのまま残したまま、課長の元に走った・・・。

 結局、午後の仕事をさぼったせいで、仕事が山積し、帰宅する頃には11時を回っていた。
 バスもとっくになくなっていて、俺は駅前から家まで歩く事にした。
 この道、前もこうして歩いたっけ。
 確か、千春に初めて出会った日。
 女々しくベソをかきながら帰っていたら、花村と抱き合っている千春がいたんだよな。
 俺はその時の光景を思い出して、内心黒い感情が沸き起こってくるのを感じた。
 俺って、こんなに嫉妬深い男だとは知らなかった。
 思い出にまで嫉妬するなんて。
 ただ同時に、こんな気持ちになるまで人を好きになることができたんだという喜びも感じていた。
 中学生の時のトラウマで、もうまともに人の事を好きになるなんて、できないかもしれないと思っていたから。
 だから・・・。
 ありがとう、千春。
 もし千春から、なんの返事ももらえなかったとしても、俺の千春に対する感謝の気持ちは変わらない。ずっと。
 外見だけじゃない、俺の心まで変えてくれたのは、千春だから。
 人を好きになる喜びを与えてくれたのは、君だったから。
 ただ、その君が傍にいてくれないことは、途轍もなく悲しいけどね・・・。
 俺はまた危うく泣きそうになり、スンと鼻を鳴らすと、マンションが見えるようになる角を曲がった。
 足を止める。
 マンションの前に、人影。
 背が高くて、栗毛色の髪をしてて、一体何頭身だって思えるくらい顔のちっちゃい、超絶キレイな、男。
 ・・・・・千春・・・・・。
 幻覚じゃないよな?
 俺は両目を擦って、顔を上げる。
 でもそこには確かに千春がいて。
 千春は俺に気付くと、首を傾げて、ちょっと困っているような、苦笑いにも似た表情を浮かべた。眉毛が、キレイに八の字眉になってる。
 急に走って行ったら消えてなくなってしまう気がして。
 俺はゆっくり歩いて千春に近づいた。
「千春。ずっとここで、待っててくれたのか?」
 俺が恐る恐る声をかけると、千春は少し頷いた。
 凄く、真剣な表情。
「テレビ、見てました」
「うん」
「だから、シノさんに返事を伝えなきゃと思って」
「ああ」
 俺はすうと息を吸い込む。
 いよいよ、審判がくだされる瞬間だ。
「 ── シノさん。僕はあなたのこと、好きということではないんです」
 千春は、そう言った。
 ああ・・・と俺は思った。
 これが、千春の答えなんだ、やっぱり。
 そうなんだ・・・。
 何とも言えない喪失感を感じていると、千春が、俺の右手を両手で包み込むようにして握った。
「僕はシノさんを愛しています。好きなんて言葉じゃ、足りないんです」
「え・・・」
 俺は千春の顔をもう一度見つめた。
  ── 千春・・・、それって・・・
 千春はテレくさそうに笑いながら、「僕もあなたなしじゃ、やっぱりダメなんです」とまた小首を傾けた。
 千春は俺から手を離すと、右目の目尻に浮かんだ涙を指で拭う。
「千春・・・!」
 俺はカバンを放り出して、千春を抱きしめた。
「・・・シノさん」 
 千春が、抱き返してくる。
 そうしてやっと、千春をこの手にできたんだと実感した。
  ── ああ、千春・・・本当に、よかった・・・。
「千春、好きだよ・・・。俺も、愛してる」
 俺が顔を起こしてそう告げると、今度こそ千春はポロリと涙を零して、俺に口づけた。
 俺も千春の頬に手を添えて、口づけを返す。
 前は、花村がこうして千春に口づけていたのに。
 今は俺が千春に口づけている。
 俺は、昔の記憶を消し去るためにも、何度も何度も千春に口づけた。
 その度に、愛しさがこみ上げてくる。
 千春、本当に俺は、君が好きだ。こんなにも君が、好きなんだ。
 二人で荒い吐息を吐き出しながら、見つめ合う。
 こんなに間近で千春の顔を見るのは久しぶりだったけど、やっぱり凄くキレイで。
 こんな素敵な人が、俺のものになってくれたんだという喜びが、俺の中に沸き上がって。
 俺は千春の手を掴んでグイッと引っ張ると、マンションの中に入ろうとした。
「 ── シノさん! カバン、カバン!!」
「え? ああ」
 俺は千春に言われて、初めてカバンを忘れていることに気がついた。
 千春が、空いた方の手を伸ばしてカバンを拾う。
「まったく・・・。夢中になると、いろいろすぐに忘れちゃうんだから」
 千春にこうして小言を言われるのも、もはや快感としか感じられない俺。
 これって、かなりヤバいかな?
 俺は、俺のカバンを持ったままの千春の手を引いて、マンションに入る。
 とにかくすぐ、何よりも早く、千春を抱きたいと思ったから。
 鼻息荒くてみっともないし、ムードのへったくれもなかったけど、それが俺の正直な気持ちだった。
 二人でエレベーターに乗り込んで、また俺は千春に口づけた。
 ハァハァと呼吸が上がる。
「 ── 千春、部屋に着いたら、すぐ抱きたい・・・。いい?」
 千春は唇を噛み締め、ウンウンと頷く。
 また俺は口づける。
 そうしていたら、チーンと音が鳴って、ドアが開いた。
 俺は千春の手を引いて、俺の部屋へと急いだ。
 ドアを開けようとして、当たり前だが鍵がかかっていることに気付く。
「鍵」
 俺がドアノブを睨みつけてそう呟くと、千春が慌ただしく俺のカバンの前ポケットを探った。
「シノさん、鍵!」
 千春が鍵を差し出したが、俺に渡す前に落としてしまった。
「あ! ごめんなさい!」
 俺達は同時に鍵を拾いに行く。
 ゴチンと額をぶつけて、互いにそこを押さえた。
 顔を見合わせる。
 ふいに身体の力が抜けて、二人で吹き出した。
「俺達、ちょっとガッツキ過ぎかな」
「 ── そうですね」
 フフフと千春が笑う。
 俺は本当におかしくなって、近所迷惑も省みず、ハハハと高笑いをしてしまった。
 その俺の頬を、千春の手が優しく撫でる。
 今度は千春から、そっとキスをしてきた。
 千春の舌先が俺の唇を撫で、俺はそれを受け入れる。
 さっきまでの、唇を押し付け合うキスとは違う、静かだけど情熱的なキス。
 唇を離すと、千春がペロリと唇を舐めた。
「・・・早く部屋に入りましょう」
 千春が呟いた。俺は頷く。
 鍵を拾って、ようやく鍵を開けると、俺達は部屋の中に入った。


<以下のシーンについては、URL請求。→編集後記>


エピローグ

 小さなアルファロメオが、栃木に向かう高速道路をひた走る。
 春の爽やかな風が、俺の髪を揺らした。
 高速道路は都心を出るまでは混んでいたけれど、いくつかのサービスエリアをやり過ごす頃には、車列は順調に流れ始めた。
 左に目をやるとサングラスをかけた千春が、リラックスした様子でハンドルを握っている。
 ホント、付き合ってる俺がこう言うのは、単なるお惚気にしか聞こえないと思うけど。
  ── カッコいいんだよなぁ、どんなシーンを切り取ってもさ。
「けど、シノさんよかったんですか? 塩の湯温泉で。柿谷酒造の方達にも、変な噂が届くかもしれないのに」
 再び、窓の外から吹き付ける風を顔に受けながら景色に目をやる俺に、千春が声をかけてくる。
「変な噂って?」
 俺が風景を見たままそう聞き返すと、千春は答えない。
 俺が千春を見ると、気まずそうに千春が口ごもっていた。
 その表情、何を考えてるかわかるぞ。
「 ── 俺が、男好きっていう噂?」
 俺がそう指摘すると、千春が溜め息をついて、頷いた。
 俺は腕を組んで、助手席のシートに身体を沈めた。
「ま、確かに、俺自身本当に男好きかどうか、わからないけどさ。少なくとも千春を好きなのは確かなんだし。千春は男だから、この際、男好きってことになっても、いいんじゃないか?」
 俺がそう言うと、千春はハハハと声を出して笑った。
「なに、その理論」
「だってそうだろ?」
「そうですかね」
「ああ。大事なのは、愛こそ、すべて・・・てね」
 俺がそう言って千春を見ると、千春が横顔がパァッと赤くなった。
 俺はそれを指差すと、いつものお返しとばかりに、一頻りハハハハと高笑いしたのだった。

 

all need is love end.

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編集後記

新たな気持ちで取り組んだ二年ぶりの新作更新、ついに終焉!!

思わず『触覚』の時みたいに、登場人物を映画のエンディングクレジットのように並べたくなりました(笑)。
エンディングテーマは、トンの「Duet」で。
「Duet」は、シノさん目線の歌としてはぴったりだから。

最終回の今回。
一見すると短いですが、大人シーンをこれに加えると、かなりのロングランです(笑)。
本文よりエロが長いってなんだろう・・・(大汗)。

ま、とにもかくにも、無事最後まで更新を続けることができました。
連載している間、皆様からはほっこりコメントやら、思わず「プッ」と吹き出してしまうコメント、心にじんわり響くコメントなど、様々な感想をいただきました。
本当にありがとうございました!!
やはり、感想が聞けるのは、文句なく嬉しいものです。やっぱりね。
重ね重ね、御礼申し上げます。

しかし、最後までタイトルイラスト、描かずじまいでしたなぁ・・・。
スキャナが壊れてるのが主な原因ですけど、もう二年間も絵を描いてないっていうのも原因か・・・。
そのうち、気が向いたら、ある日突然タイトルイラストが出現するかもしれません。

取り敢えず、次のお話の連載開始までしばし休憩の時間をいただきたいと思います。
次の休憩は、二年なんてことにはならないはず・・・(脂汗)。
ざっくりとした目標としては、年明けぐらい???
確信はもてませんが・・・。(仕事が年度末まで鬼のように忙しい気配なので(汗))。

合い言葉は、

二番もあるんだぜ。

わはははは。

皆様、ごきげんよう!!!
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[国沢]

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