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act.47

 リサが出張で日本に行っていたことはショーンも承知していた。
 だがそれが、ショーンに関してのことだとはまるで思ってもいなかった。
 リサ・・・いや、彼女もエレナ・ラクロアもショーンの置かれている『アメリカでは歌う環境が整わない』という状況に心を痛めていたのだという。
 彼女達もまた、ショーンの素晴らしい歌声の虜となっていた。
 そして彼女達は次の手を考えてくれていたようだ。丁度、羽柴が手を打ってくれていた時のように。
 まるでショーンを中心にして、周囲が強い力で突き動かされているような一連の動きだった。
 リサは、雑誌発売と前後して日本に飛んだ。
 彼女自身のコネクションで、日本の大手総合企業『i-consumer』の常務取締役と会い、最新号のエニグマを持参した上で交渉を行った。
 アイ-コンシューマ社は、最近大手邦楽レーベル『ノート』を買収したことで話題になっていた巨大企業だった。その傘下には、ファッション関係のアパレル企業も抱え、エニグマ・ジャパンとの縁も深い。
 リサはそこに目をつけたのだ。
 アイ-コンシューマ社の買収したレーベルはいくら大手とはいえ、所詮は主に邦楽での成功を収めているのみで、海外進出に関しては幾度か失敗をしていた。それはひとえに、海外でも通用するアーティストが不足していたことと、海外のアーティストと契約を交わすにもすでに他の会社が市場を押さえていたので、後期参入ではあまりにも遅すぎたということが理由に挙げられた。
 その事業失敗を敢えてアイ-コンシューマ社が穴埋めすることでこの買収劇となった訳だが、今回リサは、アイ-コンシューマ社に再度ノートの海外進出にチャレンジする心づもりがあるかどうかの腹を探りに行ったのである。本社のアイ-コンシューマ社は既に様々な業種で海外進出を成功させており、その可能性は濃く見えた。
 幸いなことに、リサとアイ-コンシューマ社の常務取締役・小山内は旧知の仲で、米国で同じ大学に通った先輩後輩の間柄だった。
 ざっくばらんな話もできる仲で、ズバリ本音も聞き出せる。
 そこでリサは、ショーンを日本のレーベル『ノート』の専属アーティストとして契約し、それを欧米に逆輸入する気はないか、と持ちかけた。
 小山内は、ショーン・クーパーのことももちろん知っていたし、マスコミを通じての範囲ではあるが、今回のバルーンを巡っての泥沼の抗争も知っていた。
 そしてエニグマの展開した広報が起こした反響も。エニグマの最新号の広報活動で上がった成果は、ショーン・クーパーの人気に太鼓判を押したようなものだ。
 アイ-コンシューマ社は、顧客のニーズは高まっているのに、不測の事態でファンの飢餓感を煽るだけ煽っているこの状況を『有利』と見た。
 今後とも、エニグマ本社とタイアップを密に図っていくことを条件として、アイ-コンシューマ社が動いた。
 ショーン・クーパー獲得の意志を明確にしたのである。
 取り敢えずその為に小山内がリサに出した要求は、ショーン・クーパーをまず日本に連れてくること。
 そして、日本のファンの前でまずミニライブを行い、そのリアクションをチェックすることだった。
 いずれ、ショーンのソロアルバムを出すにしろ、まずは日本のレーベルからのプレスとなるので、日本の市場に受け入れられることが絶対条件だった。その条件は、ある意味海外に逆輸入する時よりも条件は厳しいかもしれない。なぜなら、洋楽がいくら日本国内でヒットしたとしても、邦楽には適わないからだ。それがどこまで通じるか、見極めたいのだろう。
 それを受けての、リサの電話だった。
 彼らの提示した計画は、次のようなものだった。
 まずはショーンに日本まで来てもらって、小山内と面会。
 そしてノートが年間契約をしていて、優先的に使わせてもらえる東京のライブハウスでミニライブを行ってもらう。
 ミニライブは事前にネット上や各メディアで宣伝告知をし、入場者を募集する。
 そして、ショーンが日本に到着した際は、CSの音楽専門チャンネルや他の一般メディアでのインタビューに応じてもらう。
 以上のようなものだ。
 だが、ショーンにとっては、どんな条件だろうと返事は「イエス」しかなかった。
 だって、日本に行けるチャンスができたなんて!!
 ショーンは、電話口のリサに、すぐにでも日本に飛んでいきたいと叫んだ。
 その興奮振りに、リサが面を食らったほどだ。
『── ちょっと、どうしたの? 確かに、そんなに喜んでもらえるとこちらも凄く嬉しいけれど・・・』
 リサも、流石にショーンのこの喜びようは異常だと感じたようだ。
 ショーンは、ここ数週間に起きたことをざっと話した。
 リサが、ショーンの想い人が誰であるか知らないことをすっかり忘れて。
「もしもし? リサ? ね、聞いてる?」
 ショーンが最後まで話し終えると、物凄い長い沈黙が電話口で流れたので、ショーンは電話が壊れてると思って、思わず受話器を覗き込んだ。
 その途端、受話器の向こうからリサらしくない子供じみた絶叫が聞こえてきた。
 ショーンもルイも、同時に顔を顰めて、受話器から顔を放す。
『ショーン! ショーン!!』
 リサが上擦った声でショーンを呼ぶので、ショーンは慌てて受話器を耳に当てた。
「ごめん、リサ、聞いてるよ」
『今私、とんでもなく気が動転しているんだけど・・・。ショーンの好きな人って、羽柴君なの? アイツのこと、好きなの?』
 リサは、ショーンが誰かに熱烈に恋をしていることは知っていた。
 しかし、その相手がよりにもよって五年来の友人である羽柴耕造だったなんて、予想もしていなかったことだ。
 リサのその発言を聞いて、ショーンもやっと自分がとんでもないことをぶちまけてしまったことに気が付いた。ショーンもショーンで、リサの申し出に動転していたのだ。
「── あ」
 思わず出してしまったその声は、リサの言ったことを肯定していた。
『うわ~~~~、信じられない! やだ、ちょっと手が震えてる。ホントにアイツなの? アイツ、一般人よ? 普通の男よ? しかも、あなたより17歳も年上の、オジサンよ!!?』
 羽柴が聞いたら、間違いなくリサはヘッドロックされただろう。
 でもショーンはもう、そんなこと言われてもこの気持ちが揺らぐことはない。
「そのオジサンがいいんです。凄く凄く好きなんだ。だから、お願い。日本で、コウに会いたいんです。会って、誤解を解きたい。今でも好きだって、彼に言いたい」
 また少し沈黙が流れた。
「リサ?」
 ショーンが不安になって呼びかけると、リサが息を吐き出す音が聞こえた。
『── 行きましょう、ショーン。一緒に日本へ。あなたと羽柴君が会えるように、何とか策を考えてみる』
 その声は、いつもの落ち着いたリサの温かい声だった。
 
 
 翌日には、ショーンの日本行きの段取りがつき、ロスの空港でリサと落ち合って日本に向かうことになった。
 今回日本へ行くのは、ショーンとリサ。そして前回撮影でスタイリストをしてくれたアン、それから今回の一連の様子をまたエニグマで特集することになったので、撮影スタッフとしてシンシアも同行することになった。
 最初エニグマのスタッフやショーンがシンシアに気を使って、別のカメラマンにしようかと相談していたところ、シンシアから同行したいとの申し出があったのである。
 ゴシップ記事のせいで、シンシアは益々そんな目で周囲から見られることになりそうだが、本人はいたってケロリとした顔つきをしていた。それどころか、「カモフラージュになっていいじゃない」とお得意のコミカルな顔つきをして言うものだから、周囲の笑いを誘った。唯一内心複雑そうな顔をしているのは彼女の本当の恋人、ルイだけだ。
 そこのこともあってかどうかは分からないが、今回ルイも同行することになった。
 日本で行われるミニライブでステージのプロデュースをしてもらうためだった。
 ショーンとしても、自分をよく分かってくれている音楽スタッフがステージバックを統括してくれるのは心強い。ルイはショーンの新曲を作ってアレンジする段階から関わってくれているので、余計に安心できた。
 そしてショーンは、羽柴が日本に帰国する一日前に日本入りしたのである。
 
 
 四日間という滞在期間での強行軍だったために、日本入りした初日からショーンは目まぐるしく動いた。
 まずはアイ-コンシューマ社の小山内とレーベル『ノート』の代表・石川らと会って挨拶を交わした。
 日本語が全く分からないことに不安を感じていたショーンだったが、小山内、石川ともに英語がしゃべれたのでトンチンカンな会話になることなく、和やかに打ち合わせは進んだ。
 打ち合わせとはいっても具体的な話は余りしなかった。まずはショーンのお手並み拝見といったところだろう。二日後のミニライブを楽しみにしていると笑顔で肩を叩かれた。
 二人ともショーンが思っていたよりも若くて、柔らかい印象だった。けれど、一流のビジネスマンが醸し出す鋭さも持ち合わせており、特にアイ-コンシューマ社から出向している『ノート』の新代表・石川は、長身でどこかジム・ウォレスを思わせた。
 その後は、ノートの社内を案内してもらい、アイ-コンシューマ社とノートがどのような会社であるか一通り説明してもらった。
 ノートはアイ-コンシューマ社の地上30階地下3階にも上る自社ビルの中のワンフロアが当てられており、ノートのスタッフは突然の若きロックアイコンの訪問に色めき立った。
 誰もが驚愕と羨望の眼差しでショーンを迎え、大きな拍手で送った。
 どの社員も社員という立場を忘れて、一般ファンのような顔つきをしていた。
 ここ数日、本当に実現するのかどうか正直半信半疑だったことが現実なのだと自覚できた瞬間だったろう。
 その後ショーンとリサは、食事と次のスケジュールをこなすためにホテルに戻ることになった。
 午後に予定しているCS音楽専門チャンネル等の取材も同じホテルの一番広いスイートルームで行われることになっていたためである。
 
 
 ピタリとショーンの額に温かいおしぼりが載せられた。
「大丈夫? ショーン」
 シンシアだった。
 ショーンの為に用意された三番目のランクのスイートルームでシンシアと一緒にルームサービスの昼食を取った後、長旅と時差ボケ、そして緊張のためもあってかショーンは少しベッドに横になった。
 シンシアがのせてくれた温かいおしぼりが気持ちいい。
「サンクス・・・。何だかホッとした」
「少し眠る? 時間になったら起こして上げる」
 シンシアがベッドの傍らに腰掛ける。
 ショーンはおしぼりを押さえながら、ゴロリと身体を横向けると、窓の外に広がるビル群が密集した東京の風景を眺めた。
「── この街のどこかにコウ、いるのかな・・・」
 シンシアも、窓の外を眺める。
「ニューヨークもいい加減たくさん人がいるけど。東京も負けてないよね」
 ショーンは苦笑いした。
「こんなたくさんの人の中、当てもなくたった一人の人に会おうとしてるなんて、今更ながら奇跡のように思えるよ」
「考えてみれば恋愛できる相手なんて、世界中の何百億という人の中で巡り出会った人なんだから、それだけで奇跡って感じよね」
「ホント、そうだ」
 二人で笑い合う。
 けれどショーンの笑みはすぐに物寂しそうな表情に変わっていった。まるで笑顔がみるみる萎んだみたいに。
「日本に来てからもコウの携帯に電話かけてるんだけど、全然繋がらないんだ・・・。リサが言うには、コウのは多分国際型の携帯じゃないからじゃないかって。リサのみたいに、全世界で使える訳じゃないのかも。リサにも忙しい中色々調べてもらってるけど・・・やっぱり無謀だったのかな」
 そう言うショーンに、シンシアが以前やったみたいにムニュとショーンの頬を摘む。
「もう! 弱気にならないの。彼がこの空の下にいたら、きっとショーンの情報をどこかでキャッチしてもらえるって。その為に取材を受ける相手も増やしたんでしょ? ノートのスタッフもさっき言ってたわ。ライブの募集、凄い反響なんだって。早くも定員超えてて、抽選になるみたい。海外から募集してきた人もたくさんいたんだって。その反響のお陰で、ノートの首脳陣も本腰入れてきたみたいで、広報活動を積極的に動いてくれるそうよ。本契約する前だっていうのにね」
「へぇ、そうなんだ・・・」
 そこら辺の話は、まだショーンの耳に入ってきていなかった。
 その間ショーンは、取材の件についてリサと打ち合わせをしていたからだ。
 シンシアが言う通り、ショーンはできるだけ夜ギリギリまで取材を受けることにした。
 多少無理をしても、それでショーンの声が羽柴に届くチャンスが増えるのだから、やるべき価値は高い。
 雑誌社の取材は今日明日の告知とはならないが、テレビ系の取材ならすぐに放映してくれる可能性が高い。ノートの方もそれを条件にしてくれる取材先を優先的にしているようなので、益々可能性は高まるだろう。
 ── きっとコウの目に触れる機会はある。そう信じなきゃ。
 ショーンは唇を硬く噛みしめた。
 
 
 その日の取材は、夜の十時まで及んだ。
 音楽系の雑誌社やテレビ局はもちろんのこと、その他の民放や国営放送も取材に訪れ、エニグマでの活躍に影響を受けた女性誌までもが取材の列に並んだ。
 それはアメリカ本土の反応とはまるで違う、素直なリアクションだった。
 スタイリストのアンにヘアやファッションを整えてもらったショーンは、エニグマの撮影でスタッフを魅了した時のように、取材陣を魅了した。本人には余り自覚はないようだったが、まさしくスターのオーラが滲み出ていた。
 軽く無造作に散らされたルビー色の髪、大きくてドラマチックな色を湛える瞳、滑らかな肌、口角がキュートに上がった唇。
 長めのカフスの真っ白いシャツにアルマーニのシックな黒のボトムという格好で取材に臨んだショーンは、跳ねっ返りのロック小僧というより、若手の映画スターのようだ。
 その容姿と相まって、彼の実は素朴な素顔も彼らを魅了するいい材料となった。
 特にバルーン時代のショーンを知っている音楽業界系の取材陣は、ショーンの素顔に触れて驚愕し、益々ヒートアップした。
 誰もがショーンの甘い微笑みに魅入られ、インタビューに真摯に答える様が彼らを熱くした。
 時に質問は、バルーンのゴタゴタまで及ぶこともあったが、ショーンは努めて誠実にそれに答えた。
 取材をこなす間にショーンにも余裕が出てきて、次第に冗談も言えるようになる。
 女性ファッション誌の取材できた女性編集者の時は、生身のショーンが余りにも魅力的過ぎるので編集者はそのまま固まってしまい、逆にショーンが彼女の緊張を解してあげたぐらいだ。
 取材はリサもノートの石川も安心するくらいにどれも大成功だった。
 取材が全て終わった時には、スタッフ全員から拍手が沸き起こるぐらいだった。
 ショーンのタフさに、皆が驚きと感心の声を次々と上げた。
 そしてショーンが仕事から解放されたのは、夜の十一時を過ぎた頃だった。
 はっきり言ってショーンはもうクタクタだったので、気心の知れた人達だけで夜食を取りたいとお願いした。ホテル側もそれを考慮してくれて、他のスタッフや取材陣達には取材が行われたスイートルームの会議室に食事が用意され、一方ショーンとリサ、アン、シンシア、ルイにはショーンの泊まる部屋にあるダイニングテーブルに品数の多いルームサービスを用意してくれた。
 流石にニューヨークのホテル・アストライヤほど手厚いサービスではなかったが、それでもホテル側は随分こまめに対応してくれた。それに部屋の設備もアストライヤを軽く凌ぐ程の高級感で、一人でこんな部屋に泊まるだなんて返ってショーンが恐縮したぐらいだ。
 バルーン時代は、イアンの好みもあって平気でそんな部屋に宿泊していたのだが、今のショーンは、先がどうなるか分からないような若造である。
 だが、小山内の好意もあってか、海外の一流アーティストの待遇でショーンは迎えられていた。
「本当にお疲れさま。明日は少しゆっくりできるから。明後日のライブに向けて、リハーサルするだけよ。小山内さんと石川さんも会場に来るって。── ところで、ライブの募集がどうなってるか聞いた?」
 リサが赤ワインを美味しそうに味わいながらショーンに聞いてくる。ショーンはフレンチトーストを頬張りながら頷いた。
「シンシアから聞いた。凄いことになってるって」
「私もノートのスタッフから聞いてびっくりしたわ。だって海外からも申込みがあったんですって。アメリカだけじゃなく、ヨーロッパからも。明後日のライブのために飛行機に飛び乗ってくるファンがいるだなんて、本当に凄いわ。随分急に決まったライブだったのに」
「本当にそうだよなぁ。改めてショーンの人気には頭が下がる思いだよ。俺も明日のリハ気を入れてやらなきゃ・・・」
「やだ、ルイ。手を抜くつもりだったの?」
 ルイの向かいに座るシンシアがニヤリと笑いながらルイにちくりと嫌みを刺す。ルイは「もちろんそんなつもりはなかったさ」とか言いながら、頬を赤らめている。
 ── もし二人が結婚でもしたら、なんだかルイ尻にひかれそうだな・・・。
 ショーンはフォークを行儀悪く銜えながら、そんな二人の様子を微笑ましく見つめた。
「確かに、反応が良いのはファンだけじゃないわね」
 さっきからサラダをまるで虫のように貪り食べながら、アンが言う。
「インタビューが終わって部屋から出てくる連中は男も女も関係なしに、もう目がハートだったもの。いい年こいた大人達が、キャーキャーはしゃいでたわ。日本人って、顔も若いけど、リアクションもそうなのかしら」
 大きな身振り手振りを交えて、アンがコミカルに話す。皆それを見て笑った。
「でも今日は奇妙な感じだったよ。インタビューの様子をずっとシンシアも撮影してたじゃん。そしたら、取材してる人もあのデマの記事を当然知っててさ、そのことを訊きたそうにしてんの。でも当事者が二人して揃っているから逆に聞き難い、みたいな雰囲気で。ホント、おかしくて、つい笑いそうになった」
 ショーンはそう言いながらも思い出し笑いをする。
「互いに本当に恋人同士じゃないから、ラブな雰囲気も全然ないしね。皆、本当に不可思議な顔つきしてた」
 シンシアがそう付け加えて、皆でまた笑った。
「せいぜい訊いて来られたのは、写真のことだけだったわね」
 リサはショーンを除く皆のグラスにワインを注いだ。
 ショーンは羨ましそうにそれを眺めたが、大人しくグレープジュースを舐める。
「そうそう、あれもしつこく言われてたじゃない。腰の刺青見せてくれって」
 取材室の中にいなかったルイとアンが、そうなの?と目を丸くする。
 実は、シンシアがモノクロのフィルムで撮影した最後の写真は、エニグマのショーン・クーパー特集ページの最後を飾った。
 上半身ヌードで、腕越しにカメラを物憂げに見つめているショーン。
 腰履きにしたジーンズの際から、あのセクシーな刺青が覗いている印象的な写真は、最も評価の高かった写真だ。
 その写真はまるで宝物のような扱いを受け、広報物には全く使われず、発売と同時に皆の目に触れた訳だが、それでもその写真が一番の話題をかっさらった。全米のどれだけの女性の胸を射抜いたことだろう。
 バルーン時代も含めて、ショーンが公の場で上半身裸になることはなかったので、その点においても注目度が上がったのかもしれない。
 服を着ていると華奢に見えるショーンだったが、脱ぐと意外にしっかりとした青年らしい筋肉質な身体つきをしていたので、益々女性達を虜にしただろう。
 今回の取材でも、ここぞとばかりに取材陣があの刺青のことに触れた。
 刺青の意味は、コウに向けてのメッセージとしてきちんと話したが、それを見せてくれという要求だけは丁寧に断った。
 あの場でズボンや下着をずり下げるつもりはなかったし、やはり何よりあれは特別なものだったから、赤の他人に本物を見せる気分にはならない。
 ファッション関係の女性記者には結構厳しく迫られて流石に閉口したが、頬にキスすることで我慢してもらった。きっと取材室の外で一番大はしゃぎしていたのは、彼女のことだろう。
「あれを生で見ていいのは、大切な俺の本当の友達だけ。そんで、あれに触れていいのは、俺の愛するコウだけ」
 ショーンがそう言うと、アンやルイに指笛を鳴らされた。
 ショーンの左隣ではリサが手で顔を扇いでいる。「全く、ホント未だに信じられないんだけど」と呟きながら。
「メッセージが伝わるといいわね、彼に」
 周囲が熱い熱いと騒いでいる間、右隣のシンシアがショーンの耳元にひっそりとそう呟いたのだった。

 

please say that act.47 end.

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編集後記

今回は随分前倒しの更新になりました。
まさにイレギュラーな更新でございます(汗)。
実は、私、本日(11日金曜)のpm9:30から家を旅立ち、一路沼津に行くことになりまして・・・。実は、沼津で行われるお祭りに踊り子として参加するんです。
ということで、土曜更新が不可能、ということで、急遽金曜更新となりました。
ま、ここまではそう慌てる話ではないんですが・・・(大汗)。
実のところ、恐ろしいお話なのは、これからお話することで(大汗汗)。

実は、本日の午後三時頃、
完全にi-bookがイテモウタ~(激汗)!!!!の状態になってしまいました(大汗)。
とんでもない・・・とんでもないピンチです・・・。
仕事ができないことはおろか、これじゃ更新もできねぇ・・・。今晩9時半には、家を後にしなければならないのに・・・(滝汗)。

ということで、大慌てでマイ・マックを復活させたわけですが、そこで大ちょんぼ(涙)。
殆どのところは無事復活できたのですが、唯一(だと思われる・・・一応・・・)のメールのバックアップが

飛びました・・・・。



受けたものも、自分で送ったものも、すべて。

・・・・。

ヨロッヨロヨロ・・・・・。
本日までメール配信お申し込みの分は、すべてお送りしていたので大丈夫だと思いますが、万が一「メール配信申し込んだのに届かない!」っていう方がいましたら、お手数ですが再度お送りいただけたらと思います(涙)。

[国沢]

小説等についての感想は、本編最後にあるWEB拍手ボタンからもどうぞ!

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