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nothing to lose title

act.14

 その日の晩は、羽柴の部屋で過ごす最後の晩になった。
 荷造りも終え、主な荷物はすでに宅急便で向こうに送る手配も済んでいた。大きな家具は先ほどリサイクルショップの店員が来て、瞬く間に運び出してしまい、室内はガランとしていた。リビングには、緑色のソファーがぽつんと残っている。
「このソファーはどうするんです?」
  床に直接座ってピザを食べ終わった真一は、空になったケースをゴミ袋に入れながら言った。
 羽柴はニヤッと笑うと、真一の手を引いてソファーに腰掛けた。
「このソファーはお前に貰ってもらおうと思って。真一の部屋になら置けるだろ?」
「え? いいんですか?」
「ああ、もちろん」
 ニコニコと少年のように微笑む羽柴の笑顔に何を思ったのか、真一は眉間に皺を寄せた。
「何を企んでいるんです?」
「何をって・・・、分かるだろ?」
 羽柴はそう言って、真一をソファーに押し倒す。
「床の上じゃ、真一が痛いからさ。態々残しておいた」
 真一の顔がみるみる赤らんだ。
「荷造りの間、そんなこと考えていたんですか?! あなたは?!」
「うん。それしか考えていなかった」
 あっけらかんとしている羽柴の言い草に、真一は言葉を失ってしまう。
 羽柴は、鼻先を真一の鼻先に擦り付けて言った。
「それにこれがお前の部屋にあると思い出せていいだろ? 今夜のこと」
「何を・・・!」
  気恥ずかしさで真一は、右手で顔を覆った。
「今夜は俺達の初夜だ。新婚だもんな」
 クックックと羽柴が笑う。
「もう・・・。あなたって人は」
 指の間から羽柴の顔を見上げる。その真一の手を、羽柴が取り去った。
「そんな俺が好きなんだろ?」
 真一は、羽柴を見つめ続ける。やがて観念したように笑顔を浮かべ、頷いた。
 羽柴が、ゆっくりと真一の唇を奪う。
 静かに、しっとりと、深く。
 真一の手が羽柴の背中に回り、羽柴の身体を確かめるように撫で上げた。
 羽柴は真一の首筋にキスを繰り返しながら、真一の服を脱がせようとしたところで、その手を真一に掴まれた。
「ちょっと待ってください」
「何?」
 羽柴が顔を上げると、いやに真面目な真一の顔があった。
「そう言えば、検査、どうだったんです?」
 羽柴が、きょとんと真一を見つめる。真一は、憮然とした表情ながらも顔を赤面させて言った。
「こんな時に訊くのは悪いと思いますけど、今思い出して・・・。あなたといるとつい楽しくて、真面目なことを考えるのが疎かになってしまうんです」
 羽柴はにっこり笑って、鼻先を真一の鼻先に擦るつける。
「もちろん、陰性でした。真一が過保護なくらい心配してくれるから、陽性なんてことは絶対ないよ」
「そうですか・・・」
 真一の顔が穏やかになる。
 羽柴が再び首筋に舌を這わそうとして顔を埋めると・・・
「ちょっと待ってください」
 またストップがかかる。
「なにぃ~」
 さすがに顔を歪めて、羽柴が不平の声を上げる。真一を見ると、真一は窓の方を見ていた。羽柴もその視線の先を追う。真一の言わんとしていることが判った。
 そう言えば、窓にはカーテンがない。
「あ」
「さすがにカーテンなしでは、勇気がありません」
 人一倍シャイな真一にとっては、確かに無理だろう。
 「でも、したい」と羽柴が呟くと、「僕もしたいです」と珍しく正直に真一が答えてきた。そんな真一を放っておく羽柴ではない。
「羽柴耕造の底力見せてやる」
 羽柴はそう言うと、寝室へのドアを開けておいてから、台詞の意味を咀嚼している真一をソファーに乗せたまま、それごと抱えて寝室に運んだ。
 あまりのことに、真一は目を大きく見開いたまま、ポカンとしていた。
「ここなら、擦りガラスの窓だからいいだろ?」
 羽柴がそう言っても、真一は羽柴の怪力ぶりに呆気にとられた表情のまま羽柴を見つめている。 羽柴は大きく息を吐き、次の瞬間には片膝をついて腰を押えた。
「さっ、さすがに今ちょっと腰にきたかも・・・」
「え!! 大丈夫ですか?!」
 慌てて羽柴に縋る真一を見て、羽柴が低く呟いた。
「真一を歓ばす程度には大丈夫だけど」
 それを聞いて、真一はまたもや自分が担がれたことに気が付いた。
「もう! また僕をからかって! あなたがいつもそうだから、僕は・・・」
 最後まで言うことができない。おかしくて、笑い出してしまう。
 あの聴き心地のいい声で笑う真一を、羽柴が優しく抱き締めた。
「だって俺、お前の笑い声が一番好きなんだ」
 真一も羽柴の背に手を回す。
「あなたといると、僕はすごく自由になれる・・・」
「そうか?」
「ええ」
「じゃ、恥ずかしがらず、自由な感じで、よろしくお願いします」
 その羽柴の言い草に、フフフとまた真一が笑う。
 羽柴は、真一のシャツのボタンに手をかけた・・・・。



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 出発ロビーで、羽柴は人目も憚らず、真一を抱き締め続けた。
「耕造さん・・・、会社の人、見てる・・・」
  腕の中でもがく真一に、「構うものか」と羽柴は真一を抱き締め続けた。
  二人の向こうでは、一人だけで見送りに来ていた稲垣が、居心地悪そうにそっぽを向いている。 ジェラルミン製の旅行鞄の上には、タキシードの入ったスーツバッグが置かれていた。
「あんまり帰って来れないかもしれないけど、5月頃なら一度帰れるとは思うから・・・」
 涙ぐんだ声の羽柴に、真一の方がハハハと笑って羽柴の腕を撫でた。
「やだな、しんみりとしないでくださいよ」
「お前、案外平気だな」
 羽柴が、身体を離して真一の顔を覗き込む。
「だって、大げさなんだもの」
「そうだな。一生会えない訳じゃないんだし・・・」
 互いに微笑みあった時、申し訳なさそうに稲垣が「羽柴、時間だぞ」と声をかけた。
「え? もう?」
 羽柴と真一が、同時に電光掲示板を見上げる。
 掲示板は、羽柴の乗るニューヨーク行きの便の搭乗手続きが開始されたことを告げていた。
「じゃ、行くな」
「ええ」
「向こうについたら、すぐ連絡先を教える。メールのやり方教えてやったんだから、毎日送れよ」
「了解しました」
 羽柴が荷物を手にとって、歩き始める。
 羽柴の姿が人込みに消えたと思ったら、バタバタと走って帰ってきた。
「忘れ物!!」
 羽柴は息をついてそう言うと、荷物を放り出して真一を抱き締め、情熱的なキスをしたのだった。
 稲垣がぎょっとしているのは分かっていたが、そんなことはどうでもよかった。
 真一も感慨深かったのか、羽柴の舌を切なげに追いかける。
 涙の滲むようなキスをして、羽柴は去っていった。実に羽柴らしい笑顔を浮かべて。
 ── 笑顔が見られてよかった・・・。
 真一はそう思いながら、飛び立つ飛行機を見つめ続けたのだった。



Nothing to lose act.14 end.

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編集後記

いよいよ2回目がやってまいりました! 前回の9.5バージョンよりは長めになっております(笑)。できれば、「単なるセックスだけしてるシーン」にはしたくなかったので、涙あり笑いあり(?!)のきみょ~な感じにしあがっております。そういうシーンが苦手と言われる方は仕方がないかな・・・と思うけど、羽柴の心意気が垣間見れる台詞もありますし、できれば読んでもらいたい・・・と思います。18禁制限については、9.5発行時以来、「ああいう内容なら、別に18禁にしなくても」というご意見を複数いただき、また他のサイトマスターの方の意見とか聞いてる(読んでる)うちに、そんなに過敏に18禁とこだわらなくてもいいかな~と思ったりしてます。ただ、やはり、公にホームページで公開するには、間借りしているサーバさんの規約に明らかに反すると思いますので、やはりURLアドレス請求というスタンスは変えないでおこうと思います。
「読みたい!」と思われた方は、お手数ですが画面右側の「URL請求フォーム」からお申し込みください。

[国沢]

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