irregular a.o.ロゴ

nothing to lose title

act.10

 食事は本当に申し分なかった。
 フランスの二つ星レストランの支店ともあって、味や雰囲気、サービスとも素晴らしかった。
 最後には、小さなそれでもちゃんと1ホールの形のバースデーケーキまで用意されていて、ショーンがロウソクを吹き消した時は、それまで知らん顔していた他の客達も拍手をしてくれた。
 もちろん、ロウソクを吹き消す前にしたショーンの願い事は、『ずっとずっとコウと一緒にいられますように』。
 その願い事を、本人を目の前にして唱えられたのだから、こんなに嬉しいことはなかった。
 きっと羽柴は、この特別なディナーを準備するためにいろいろ考えて動いてくれたに違いない。
 そう思うと、料理も一層美味しく感じられた。
 それになにより、羽柴が目の前で優しく微笑んでくれいるのが何よりのご馳走で。
 この夜の羽柴はいつにも増して大人の男のセクシーさが溢れていて、とにかく魅力的だった。
 この夜彼が選んだ白いシャツが、さっぱりとした羽柴の清々しい色気を見事に引き立てていて、ドキドキしてしまう。
 食事も合間にも羽柴に見取れて、それを彼に指摘されることもしばしばだった。
 気づけばあっという間に素敵なディナーの時間が過ぎ、タクシーに乗り込んでいた。
 ショーンとしては、さぁこれから帰って、「好きなだけコウを食べちゃおうっと」とウキウキしていたのだが、羽柴は家の住所を言わず繁華街の外れの住所を告げた。
「え? どこ行くの?」
 あてが外れたショーンは、キョトンとした顔つきで羽柴を見上げる。
 羽柴は、「どこだろうね」と勿体ぶって言ってくれない。
 軽い押し問答を繰り返してるうち、タクシーが止まった。
 タクシーの窓越し見えた店の看板を見て、ショーンは思わず言葉をうしなった。
 そこは地元でも有名なジュエリー店だった。
 ショーンが呆気に取られている間に、羽柴に腕を取られ店内に連れ込まれた。
 そこは高級な店らしく、外の喧噪とはうって変わって非常に静かだった。
 ショーン達以外に客はいない。
「君も大人になったんだから、きちんとしたものを身に付けなきゃ」
 ショーカウンターにしつらえられたスツールに腰掛け、羽柴がそう言う。
「お誕生日ですか?」
 品のいい男性店員が、そう訊いてきた。
 ショーンが、ショーケースの煌びやかな世界に目を丸めている間に、羽柴が「そうなんだ。今日彼は20歳になったばかりでね。そのお祝いなんだ」と説明した。
 店員は、二人の関係を知り合いの子どもとその足長オジサンとでも思ったのだろう。「それはようございました。おめでとうございます」と感じのいい笑顔を浮かべた。
「いつまでも、輪ゴムファッションじゃね」
 羽柴が肩を竦めながら言うと、店員はようやく笑うことが許されたと思ったのか、ショーンの左手
の薬指に填っている輪ゴムを見て、ふふふと微笑んだ。むろん羽柴の中指にも同じような輪ゴムが填められてあったが、羽柴の左手はポケットの中だったので店員は全く気づく素振りは見せなかった。
「例のもの見せてくれる?」
 ショーンは羽柴のその声を聞いて、はっとして顔を上げた。
 羽柴が、本気で指輪を買おうとしていることに今更ながら驚いたのだ。
「え・・・コウ、いいよ、そんな。高そうなのに・・・」
 ショーンが表情を曇らせると、店員が離れたのを見計らって、ショーンの耳元で羽柴は囁いた。
「ゴムだといつか切れてしまうだろ? 俺は君に、決して切れないリングをつけていてもらいたいんだ」
 それはとても情熱的な声だった。
 ショーンが羽柴の顔を見ると、すごく身近に漆黒色の艶やかな瞳があった。
「嫌とは、言わさないよ。君は、俺のものだ」
 ドキリとする。
 いつもは穏やかでどこか飄々としてるのに、こんな時に心臓を鷲掴みにされそうなほどの熱っぽさで独占欲を見せつけられると、身体ごと羽交い締めにされているような気がする。
 思わず身体が疼いて、目尻が熱くなった。
 ショーンが俯いて照れている間に、店員が黒いビロードに包まれたトレイを持って帰ってきた。
 ショーケースの中の煌びやかな女性用のリングとは違う、シンプルで硬質なデザインのリングが並んでいた。ちょっと未来的なデザインのプラチナリングだ。
「これがいいんじゃない?」
 ショーンがドギマギしている間に、羽柴がすいっとリングの一つを手に取った。
 それは直線的なラインの指輪だが、リングの途中でリングの幅とほぼ同じにカットされたエメラルドがはめ込まれた斬新なデザインのリングだった。プラチナの土台にはリングの中央に細いラインが入っていて、それがスタイリッシュなアクセントとなっている。指輪の形としては宝石が飛び出してない、ただの丸い滑らかな形のシンプルな指輪だったが、シンプルなデザインだけにエメラルドの美しさが際だっていた。男性的なデザインだが、艶っぽさもある。
「飽きの来ないデザインっぽいし、若い子がしててもお洒落にみえるし。それにエメラルドは、君の誕生石でもある訳だから」
 ショーンは、きょとんとして羽柴を見上げた。
 ── 自分の誕生石がエメラルドなんて、初めて知った。
「実は前もって下見に来た時に、これがいいと思ってたんだ。どうかな?」
 ぽかんとしてるショーンの表情に流石に不安になってきたのか、ショーンの表情を伺いつつ羽柴が訊いてくる。
 やっと正気に戻ったショーンは、「スゴイよ! こんなの、俺に似合うかな」と少々興奮気味に答えた。
 何せショーンにとって羽柴から指輪を貰うというのは、物凄く特別な意味があったからだ。
 それに、羽柴が輪ゴムのことを結構気にしていてくれたなんて、うれしい誤算である。
「本当は赤い石の方がショーンにはいいかなと思ったけど、それだと俺の誕生石になっちまうからな」
 と羽柴は言う。
 ショーンは目を輝かせた。
「俺、そっちの方がいい!」
「ええ?」
 今度は羽柴がポカンとする番だ。
「だって、そっちの方がお守りになりそうだもん。ね」
 小首を傾げて羽柴を見るショーンに、店員もクスクスと笑っている。
 甥っ子にお強請りされて思惑が外れたおじさん・・・的な雰囲気になったので、それが面白いのだろう。
「ルビーのヴァージョンもございますので、お持ちいたします」
 店員はそう言って、深紅の石が填った同じデザインのリングを出してきた。
「これこれ! これがいい、俺!」
 一気にテンションの上がったショーンの声が店中響き渡って、店内にいた他の店員もクスクスと笑ってる。
「お前、ルビーの方が何気に高いじゃんかよ・・・」
 羽柴の冗談に、店内が益々和やかな笑いに包まれた。
「じゃ、耕造おじさんがエメラルドにしたらいいじゃない」
 ショーンがあえて「オジサン」という単語を使って言うと、芝居とはいえ、羽柴はムスッとした表情を浮かべた。
「お前パトロン捕まえてオジサンはないだろうが」
「お~じさんv」
 語尾にハートマークをつけてショーンが上目遣いで再度小首を傾げると、羽柴は天を向いて溜息をついた。
「こうまでされては、しょうがありませんね」
 店員もショーンの悩殺ポーズにやられて、そう言ってくる。
 店員の表情を伺う限り、一連の芝居のお陰で、すっかり羽柴とショーンが『足長おじさんとその少年』的関係と勘違いしてくれたらしい。
「じゃ、すみませんが、僕の分のリングも用意していただけますか。もちろん、エメラルドで」
 羽柴がそう言うと、店員は堪えきれない笑いを零しつつ、「畏まりました」と頭を下げた。
 結局、最初の予定ではショーンの分しか買うつもりはなかったが、勢いで二人分買うことになってしまった。
 少々まとまった出費になったが、蓄えがない訳ではないのでそこら辺の心配はなかった。
 問題は、どの指のサイズに合わせるか、だ。
「彼のは、中指のサイズに合わせて下さい」
 羽柴が有無を言わさずそう言ったので、ショーンは口を尖らせた。
「え~、俺、薬指がいい・・・」
 羽柴の前に輪ゴムが填った薬指を翳してショーンが言う。
「ダメ。変な誤解を受けたら、君が大変になるだろ。仕事の時、外さないといけないくなるぞ」
 羽柴にそう言われると、ショーンは口を尖らせたままだが口を噤むしかなかった。
 ショーンにしてみれば残念極まりなかったが、羽柴の言う通り、公の場に出ていく度にこの大切なリングを外さねばならなくなるなんて耐えられない。それなら、ごまかしの利く中指に填めていた方がいいに決まっている。そう、分かってはいるんだけど・・・。
 ── ま、いっか・・・。コウだって中指に填めるんだし・・・。
 ショーンは、今もポケットの中に隠されている羽柴の左手に填ってる中指の輪ゴムに思いを馳せた。
 そうショーンが思っていたら、羽柴はいとも簡単にこう言ってのけたのだ。
「あ、僕のは薬指に合うサイズに」
 ── はぁ?!!
 ショーンは思わずマジマジと羽柴を見つめる。
「何だよ」
 ショーンの驚愕の表情に、逆に羽柴がビックリしている。
「薬指?!」
「あ、ああ」
「ホントに、薬指?!」
「そうだよ」
 しばしの沈黙の後、ショーンは呟いた。
「ウソ、みたい・・・」
 店員の目があったので流石に我慢したが、内心ではワンワンと泣き出しそうだった。
 ── だって、薬指だなんて、そんな大事な場所に、自分とお揃いの指輪をなんて・・・。
 ショーンが絶句して口を戦慄かせている間に、羽柴は店員の目を気にして、
「お前には言ってなかったが、おじさん好きな人ができてな。今度結婚するんだ」
 と言った。
「それはおめでとうございます」
 店員がそう言う。
 羽柴は頭を掻きながら、「婚約者の分はもう既に買ってしまってて・・・すみません」と言い訳をした。店員は、「いえいえ、お気になさらずに」と朗らかに答えている。
 店員が、二人の指輪のサイズを図る準備をしている間に、羽柴がショーンの顔を覗き込んだ。
「そんなに意外か?」
 羽柴は、ショーンの瞳に微かに涙が浮かんでいる意味をちゃんと理解してくれたらしい。
「ホントに結婚するの・・・?」
 ショーンがか細い声で訊くと、羽柴はコクリと一回しっかりと頷いた。
「ああ、結婚する。お祝い、してくれるだろ?」
「・・・もちろん。おめでとう。幸せになってね」
 芝居に口裏を合わせるための台詞だった。
 けれど羽柴に、「既にもう幸せすぎるほど幸せなんだ」と返され、とうとう涙が我慢できなくなった。
 ── 俺って、いつからこんな泣き虫になったんだろう・・・。いや、きっとコウの前だけは、こんなになっちゃうんだ、俺・・・
「まったく、感激屋なんだからな、お前は」
 羽柴に茶化すように髪の毛をクシャクシャッとされた。
 店員も、「本当に」と微笑んでいる。
 きっと店員の中の幾人かは、今来店しているのがショーン・クーパーであることに気づいているだろうが、彼らにしてみればあのショーン・クーパーの意外な・・・そしてピュアな一面をかいま見れた訳で、皆二人のやり取りを微笑ましくみているのはそういう感情も相まってのことだろう。
 ── 嬉しくて、幸せ過ぎて、ここで息がとまりそう・・・
 ショーンは、リングのサイズを合わせている間も、はなをグズグズ言わせ、羽柴にハンカチで鼻の下をゴシゴシと拭かれた。そんな仕草も周囲の笑いを誘う。
 リングは、ショーンのサイズも羽柴のサイズも丁度在庫があり、すぐさまケースを受け取って店を出た。
 帰りに拾ったタクシーは大きな音量でラジオがかかっていて、ショーンがはなを啜る音も幸いなことに掻き消される。
 シートに並んで座って、密やかに手を繋いだ。
 羽柴の左手の中指に輪ゴムはもうない。
 リングサイズを図る時に、ポケットの中で外してしまったのだ。
 けれど彼は今夜、それとは違う、もっと特別な場所に特別な意味のリングを填めてくれようとしている。
 薬指には今だうっすらと残る前のリングの跡。
 彼はここに、新たな指輪を填める決意をしてくれたのだ。
 ── そう、ショーンのために。
 そう思うと、また新たな涙が浮かんできた。
「あんまり泣くと、変に思われるから」
 ショーンの耳元で羽柴が優しく囁いた。
 ショーンは、うんと頷くので精一杯だった。
 
 
 家に帰った途端、ショーンが抱きついてきた。
 タクシーに乗っている間も、溢れてくる感情をどうにかこうにか抑え込んでいる様子は分かっていたが、玄関入っていきなりだったので、羽柴は「おっと」と慌ててショーンの体重を支えた。
 ショーンは言葉もなく羽柴の首のしがみついている。その首筋が湿っぽかったので、彼がとうとう本格的に泣き出したのが分かった。
 羽柴はフッと微笑みを浮かべると、ショーンの長い両脚を自分の胴回りにヨイショと巻き付け、彼の腰を抱えて玄関先の階段を上がった。ショーンは正しく抱っこされる形で運ばれた訳だが、羽柴の腕力をすっかり信用しきってるのか、しがみついたまま大人しくしていた。
 羽柴は、リビングの大きなソファーにショーンの身体を下ろす。そしてローテーブルの上のティッシュボックスを手渡した。ショーンは早速、チーン!とはなをかんだ。それを見て、ハハハと羽柴は笑う。
「まったくホントに泣き虫だなぁ」
「誰がっ、そう、させてん、だよ!」
 えづきながらの反論に、益々羽柴は笑ってしまう。
 キッチンでコーヒーをいれて、ショーンに手渡すとようやくショーンが落ち着いてきた。コーヒーを啜ってホッと息を吐き出す。
 羽柴はそんなショーンを見計らって指輪のケースを二つポケットから取り出した。
「また、泣き出すなよ」
 ニヤニヤと羽柴は笑いながらショーンの左手を取ると、その中指にルビーが輝く指輪を差し込んだ。
 ショーンは神妙な顔をしてその様子を見つめていた。
 いつものマシンガントークがなりを潜めて、逆にしおらしいぐらいだ。
「何だかんだ言っても、やっぱりショーンには赤が似合うな」
 ショーンの指に輝くその光は、ショーン自身の瞳の色にそっくりだった。
「── ありがとう・・・。本当に大切にする、これ」
 ショーンは右手でギュッと左手を握りしめる。
「俺のは填めてくれないの?」
 羽柴が自分の左手を差し出すと、「ホントに、いいの?」と念押ししてきた。
「何度も言わせるなよ」
 羽柴は苦笑いする。
 ショーンがもう一つのケースからエメラルドの指輪を取り出すと、羽柴の手を取った。ショーンの手は小刻みに震えている。
 ショーンは、羽柴の薬指に指輪を差し込む前に、再度羽柴の顔を見上げた。羽柴は、安心させるようにうんと頷く。
 ショーンは、なぜかぎゅっと目を瞑りながら、羽柴の指に指輪を差し込んだ。そして目を開けてそれを確認すると、はぁと大きく息を吐く。
「まったく、そんなに肩に力を入れて・・・」
 羽柴は、ガチガチに固まったショーンの肩をさすってやった。ショーンは羽柴の身体に凭れかかりながら、羽柴の左手を取ると、自分の手と並べて指輪を眺めた。
「何だか、輪ゴムの時と付ける場所が逆転しちゃったね」
 ん?と羽柴は思い、ショーンの肩越しに手を覗き込んだ。
 確かに、輪ゴムの時はショーンが薬指で羽柴が中指だった。
「── なぁ、なんで俺の指は中指だったんだ?」
 思えば、ずっとショーンに意味を訊こうとして訊きそびれてきた質問。
 ショーンは、テレくさそうに微笑んで言い淀んだ。
「ひょっとして・・・、真一に遠慮してたのか?」
 羽柴がそう訪ねると、ショーンはコクリと頷いた。
「なんか・・・神聖な場所のような気がして。そこは、真一さんのもののような気がしてたから、ずっと」
 羽柴はクシャクシャとショーンの髪を掻き乱すと、「そんな遠慮はするなよ・・・」と溜息にのせてそう呟いた。
「きっと真一だって、そんな気遣いしてほしくないはずだ。ショーンが俺の中にいる真一の存在ごと俺を愛してくれるんなら、なおさらそんな遠慮はしてほしくないし、感じてほしくない」
 ショーンが羽柴の顔を返り見る。
「俺は、コウの中にいる真一さんごと、コウを愛したい」
 自分の中の決意を自分に自覚させるように、しっかりとした声色でショーンは言う。
 羽柴は微笑んで頷くと、ショーンの頭を撫でて「それなら、もう変な遠慮はしないこと」と言った。ショーンが頷く。軽くキスを交わすと、ショーンは再び自分の手を見下ろした。
「そんなことなら、やっぱり指輪、薬指にしてもらうんだったな・・・。なんか中指なんて・・・」
 羽柴は、ショーンのこめかみにキスを落とす。
 そしてショーンの左手に指を這わせると、中指を撫でた。
「ここには、俺からの愛。そしてこっちには・・・」
 羽柴は、ショーンの薬指を撫でると、
「真一からの見えないリングがきっと填ってる。── 俺は、そう思ってる」
 ハッとショーンが振り返った。
 羽柴は、ショーンの額に自分の額を擦り付ける。
「きっと真一もショーンのことを愛してるよ。俺がショーンを愛しているみたいに。・・・俺は、そう感じてるんだ、ずっと。君を、この手に抱いたあの日から・・・」
 日本で初めてショーンを抱いた翌日、真一の墓参りをして、以前訪れた時よりずっと真一の存在を近くに感じた。
 ショーンとの恋愛に悩んで、真一の存在に拘っていた時にはまったく感じなかったのに、その呪縛から解き放たれた時の方が真一の存在を身近に感じられたなんて、本当に不思議だった。
 けれどもそれが現実であり、言葉では説明できない『感覚』でもあった。
 だからそれ以来、羽柴は真一と一緒になってショーンを愛し始めているんだと思い始めた。
 なんだか奇妙な話だが、こればっかりは本能から感じるものなので、あえて否定もせずにいる。
「嫌かな・・・、こんな話。前に付き合ってた男の話を持ち出すなんて・・・」
 思わず真一のことを口に出してしまったことをバツ悪く思いつつ、羽柴が言葉を濁すと、「何言ってんの!!」と身体を羽柴の方にむき直したショーンに、両頬をムニュッと両手で挟まれた。
「前にも言ったでしょ! 真一さんは俺にとっても特別な人なんだって! 愛ある3Pなんだもん! 俺としては大歓迎!!」
 突然言い出したショーンの突拍子もない台詞に、これまでしんみりしていた羽柴は、一気にブッと吹き出した。
「さ、3P?!」
 羽柴に笑われて、ショーンはやっと自分がとんでもな台詞を言ったことに気が付いたらしい。「あ」と声を上げて、顔を真っ赤にした。
「確かに、3Pだわ」
 羽柴はハッハッハと大声を上げて笑った。
「う~~~~。思わず出ちゃったんだよ! もう忘れてよ!!」
「忘れられるはずないだろう。そんな強烈な台詞」
 目尻に浮かんだ涙を指で拭いつつ、羽柴はソファーを立つ。
「やめて、やめて! 他に言いふらさないで、さっき言ったこと!!」
 何を勘違いしたのか、羽柴の足に縋りつつ、ショーンが叫ぶ。
 羽柴はショーンを振り返ると、
「何勘違いしてるんだ。別にシンシアなんかに電話をかけに行く訳じゃないよ」
 と言った。ショーンが「へ?」と見上げてくる。
 羽柴はわざとあだっぽい表情を浮かべると、ネクタイを緩めおもむろにジャケットを脱いだ。
 天井のライトに照らされて、真っ白いシャツに羽柴の逞しい身体の線が透ける。
「 ── 俺のビキニショーツ姿、見るんだろう?」
 途端にショーンの顔が別の意味で真っ赤になった。
 羽柴はショーンを立たせて抱き寄せると、その耳元に熱っぽく囁いた。
「真一に、ショーンの恥ずかしくて可愛い姿、いっぱい見てもらおうな」
 その瞬間、ショーンの瞳が熱く疼くように潤んだのだった。

 

hear my voice act.10 end.

NEXT NOVEL MENU webclap

編集後記

二日目だぁ!!!!

とりあえず、文字大きくして、いきおいつけてみました(汗)。
50万ヒッツ記念企画3days更新、二日目でございます。

本日は、ヒヤマイの裏テーマであるキーワードが出て参りました。
ズバリそれは、『愛ある3P』
とはいっても、肉体的にはショーンと羽柴の分しかないんでそうじゃないんですが、精神的には、真一と羽柴とショーンの3Pって感じで。
このことは、以前URLのご請求いただいた一部の方にはお話ししたことなんですが、大々的に語ったことはなかったんで、今回の更新がいい機会となりました。

実は、ドンド・スピークが最終的に3Pになだれ込んだのもヒヤマイの伏線で、ショーン・クーパーというキャラクターは、初体験から運命の恋愛に至るまでずっと3Pであることをママ(作者)によって運命づけられたキャラクターなのです。

なんだか、若いのに大変な運命をしょっちゃったね・・・、ショーン・・・(脂汗)。
ま、今は見た目、二人だから・・・。我慢してもらって・・・。

須賀真一ファンの方の中には、異論がある方もいらっしゃるとは思いますが、国沢の中で真一は今でも羽柴とその周辺の人々に寄り添って温かく見守っている存在なんだと思うんです。
感覚的に言うと、映画「ベルリン天使の詩」(もしくは「シティ・オブ・エンジェル 」)に出てくる天使のような感じかな?
だからあの映画みたいに長いコート着て、羽柴君のすぐ側で顔とか覗き込んでんの(笑)。
で、羽柴君が真一の存在を感じたり感じなかったりしたのは、その時真一が意図的に姿を隠したり、他の人(ショーンとか真一ママとか)の面倒を見るのに忙しかったりとかしたんじゃないかと(笑)。
そう思うと、プレセイとかヒヤマイには、真一目線の『裏プリセイ』とか『裏ヒヤ・マイ』なんかがありそうで、それを想像するとちょっとおもしろいなぁと思うのです。
真一は、死んじゃったけど、死んでない。
そんな風に考えると、ちっとも寂しくなんか、ないよね!・・・なんてな。

ということで、今回の更新のラストをごらんいただければ分かるように、明日はいよいよ待ちに待った
貫通式
ですよの!!!皆様!!!!
やっぱ、ここまでお祭りするなら、これっきゃなんでしょう!!有終の美を飾るネタとしては。皆様、本当に長らくお待たせいたしました。

内容はもちろんアダルトオンリーになってしまいますが、まだヒヤマイのアダルトメニューURLをご請求なさってない方は、これを期に請求お申し込みしてみてください。
一回ご請求いただけると、これまでアップされているヒヤマイのアダルトテキストが全て読めますので。
むろん、これまでにご請求いただいている方は、そのまま読めますので、明日NEW TOPICに更新しました!がアップされ次第、どんどん
貫通してやってください(笑)。(最近なんだか表現が下品だな・・・(汗))

[国沢]

小説等についての感想は、本編最後にあるWEB拍手ボタンからもどうぞ!

Copyright © 2002-2019 Syusei Kunisawa, All Rights Reserved.